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婚約者に婚約の証を義妹へ譲れと言われ、雁を抱いて彼の弟のもとへ逃げた私――その男が後に夫になった
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婚約者に婚約の証を義妹へ譲れと言われ、雁を抱いて彼の弟のもとへ逃げた私――その男が後に夫になった
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現代恋愛
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最近更新:第10話 私は食べたいなんて言ってない
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2026年07月17日 11:32
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森川綾は、社交界で有名な「何でも譲ってしまう令嬢」だった。 義妹に母が残した部屋を奪われても、彼女は何も言わなかった。 母が心を込めて作ってくれたかんざしを欲しがられても、静かに渡した。 そして最後に、義妹が目をつけたのは――。 婚約者から贈られた、雁の形をした大切な婚約の証だった。 綾は初めて、遠く金沢にいる婚約者・佐伯昭人へ助けを求める手紙を書いた。 五年間待ち続けた相手なら、今度こそ自分を守ってくれると思ったから。 しかし。 昭人が老僕に伝えさせた返事は、あまりにも冷たかった。 「欲しいと言うなら、渡せばいい」 その一言で、綾の中の何かが静かに壊れた。 彼女が待っていたのは、豪華な結婚式ではなかった。 ただ一度でいい。 自分を選んでほしかっただけだった。 そして――。 八芳園で開かれた場に現れたのは、婚約者ではなかった。 佐伯昭人の弟・佐伯青司。 誰もが、彼は兄のものを奪うことしか考えないわがままな男だと思っていた。 けれど彼は、すべての人の前で静かに告げる。 「屋敷も、財産もいらない」 「俺が欲しいのは――彼女だけだ」 雨の降る夜。 義妹に傷つけられた婚約の雁を抱きしめ、綾は家を飛び出した。 行く場所もなく、震えながら辿り着いた八芳園。 彼女が恐る恐る門を叩くと、扉の向こうにいたのは青司だった。 彼は何も聞かなかった。 責めもしなかった。 ただ傘を差し出し、最初の言葉を告げる。 「何も約束しなくていい」 「そのまま入ればいい。君も……その子も、震えているから」 その瞬間。 誰かに譲ることしか知らなかった令嬢の人生は、初めて誰かに選ばれる人生へと変わり始めた。 そして後に。 かつて婚約者の弟だった男は――彼女を一生守る、本当の夫になる。
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