優菜は気づけばたくさんの友達が出来たのだった。
その友達は、最初は優菜を否定する者達だったり、そもそも優菜を知らないがゆえに噂や姫乃の言っている「ダメな子」として見てきた人達だったのだが、実際に優菜に触れることによって、優菜はそんな人間ではないと理解し始めた。
姫乃はそのことに気づきながらも、打つ手なしとして、今までと同じように優しく振る舞いながら、毒を吐く。
次第に人々は気づき始めた。
「あれ? なんで、あの人の言うことばかりを信じていたのだろうか」と……。
やがて姫乃は孤立はしないにしろ、違和感の影を皆の胸に落としていく。
姫乃はそのことにまずいと気づきながらもどうすることも出来ない。何故なら、それしか生き方を知らないから。優菜と違って、変えようという気すら起きないのだ。
だから、こうなったのは悪い優菜のせいと、姫乃の中では変換される。
そんなことではないのにも関わらずだ。
しかし、そんなことを知らない優菜は、今日も友達を増やしていた。
友達が友達を呼び、今では大きな友達の輪が出来たのだった。
社内はもちろん、社外にも出来始めた。
最近ではSNSをやり始めた優菜。普段の何気ないつぶやきや、写真を投稿していると、それに反応を返してくれる人達が増えてきた。
たまに、会う友達も出来てきた。
このことには最初不安の色を見せていた令だったが、優菜が毎度「送り迎えしてくれる?」と聞いてくれることによって、それだけ信頼してくれているならという気にさせてくれて、尚且つ帰りに嬉しそうに、楽しそうに笑っている優菜を見るのはとても気分がよかったというのもあり、オフ会などに参加することも今では好意的に見ている。
やがて、優菜の友達の数は片手では数えられなくなり、そして両手でいっぱいになり、さらにもう両手では数えきれないくらいの友達の人数になってきた。
友達は人数ではないと言うが、だが、それでも優菜には人数が増えていくと嬉しくて堪らないのだった。
開けてきた世界というものが見えてきたようで、嬉しくて堪らない。
そして何より、世界はそんなにも厳しいものではないような、そんな気さえさせてくれるのだ。
だが、少しでも気を抜いたらまだいけないだろうと、優菜は気を抜きすぎることがないように気を付けている。いつ、姫乃の毒牙がやってくるかわからない。
世界が、いつ牙を剥いてくるかわからない。
だからこそ、今を大事に生きていこうと思えるのだった。
それしか、生き方がわからないから、というのもあるが、今、この瞬間を優菜は全力で楽しみたいのだった。泣いて、笑って、そんな人生を大事にしたいと思うのだ。
一度は汚れてしまった身。だけど、それさえもきっと受け止めてくれる友達が何人かはいる。話しは、しないが……。だけど、もし話したとしても離れないでいてくれる友達はきっと何人かはいるはずなのだ。それが、優菜にとってどれだけの救いになっているのか。きっと友達には想像も出来ないだろう。
一方で姫乃は焦っていた。
どんどん、どんどん。あの、優菜に友達が増えていっているのだから。
それも、自分とは違って、見せかけの友情じゃない。
主従関係のような友達じゃない。
羨ましいと、そう思った。
でも、そんな感情を持つこと自体、自分が許せなかった。
自分が何よりも、誰よりも一番。そう思わなければ、途端に惨めに思えてしまいそうで、自分が大嫌いになってしまいそうだった。
優菜と違って、汚されても心配してくれる人などいなかった。
あの令は優菜にべったり。
こんな理不尽なことがあって堪るかと、姫乃は拳を固く握りしめる。
綺麗に施されたネイルが皮膚に食い込む……。
そしてそのネイルの施された爪を噛む。
「何かに、あの優菜に……。隙があれば……」
そう考えるも、優菜は隙だらけなのだった。しかし、それをガードするかのように、周りがしっかりとフォローする形に最近なりつつあるから、下手なことが出来なくなってきたのだ。
「……そんなことってない。ないわよ。だって、私が一番だったのに」
姫乃はスケジュール帳を取り出す。
そのスケジュール帳のポケットに入れてある写真を取り出して、不安そうに撫でる。
そこに写っているのは眠っている令と、とても嬉しそうな姫乃のツーショットだった。
学生時代に撮った、遊びのような写真だったが、姫乃にはもうこの写真くらいしか支えとなってくれるものはないのだった。
親を使えば、今すぐにでも優菜を職場から追い出すくらいは出来るかもしれない。でも、それはまた違うような気がした。
実のところ、複雑な家庭事情なのは優菜と同じく、姫乃もだった。その家庭事情は優菜とも繋がりがあるのだが、そのことを優菜は知らない。
そうだ。今度は、このことをネタに優菜を脅してやろう。悲しませてやろう。
そう思ったのだが、胸に妙な虚しさを感じていた。
本当に、これでいいのだろうかと……。
こんなことをしても、自分が満たされることはないということを、姫乃も、ついに気づき始めていたのだった。