すると魔王はまたページをバラバラバラと何十ページもめくっていく。すると目の前のドラゴンはいつの間にか倒されていて、場所は変わって今度は綺麗な城、人間の衛兵、さらには赤いカーペットが敷いてある椅子の上に座る、いかにもロイヤルな服装に、その雰囲気をさらに強める頭に乗っかった王冠が、魔王の目の前にいた。恐らくここで目の前の王族を殺してやっと魔王と呼ばれる男になるのだろう。そう思っていたが、
王様「勇者アルフレッドよ。此度の戦いに敬意を表し、金貨1000枚と爵位、そして小麦の束一万束分の領地を与える!」
その言葉を聞いた瞬間、魔王(勇者)は直ぐに跪き、こういう。
「感謝の極みでありまs「ちょっと待ってちょっと待って」
すると世界はいきなり止まって、されどこの状況を見ている彼らは動く。
前原「なんか魔王下ってません?王様に」
僕は彼女に聞いてこのこんがらがった状況を説明しろと急かす。すると彼女は
アルティノ「重要なのはこの後。幼馴染が突然やって来るわ」
とだけ言って、またそのビデオを再生するようになぞり始めた。すると先ほどの何らかの討伐報酬の式典の後から誰かが入って来る。それは女性で、そして一転王族の女性とは違うような、周りと比べたらみすぼらしい格好をしていた。彼女は魔王を確認した途端、一目散に彼の元に走っていく。
前原「どう見ても勇者の栄光にしか見えないんだけどさ、一体これは何?ゆっくり茶番劇?あの金髪の女性が幼なじみっていうのは分かるけどさ」
僕はそんな明らかにアレが魔王になるとは思えない光景が目の前に広がっていることに対して、僕は何度も隣にいる彼女に何かと質問せざるを得なかった。明らかに魔王と形容できない状況が眼前に広がっていたのだから。
アルティノ「そうだと思いたかった事が私にもあったわ」
しかし次の瞬間、彼が魔王と呼ばれる理由が明らかになる。
ザシュッ
その肉を貫くような音が鳴る。そして血が流れる音も。目の前を見れば一人の兵士が、そのみすぼらしい服装をした彼女の腹に槍を貫いていたのだ。そして王の前で忠誠を誓っていたその魔王が振り返ってそれをすぐに見返した。
前原「あ、なるほどね。つまり・・・
そして彼は彼女に何かを察して、そのことを彼女に言おうとする。
「「幼馴染を殺されたその復讐心を元に、人類に対して抗うようになった」」
そして彼女もその日記を読みながら、僕の言う事に偶然ハモッていた。もはやこの展開を何度も観たからだ、寝取られだとか凌辱だとか何回も何回も。主人公が成長するための冷蔵庫の女を何回も観ている。アニメ然り映画然り漫画然りで。
ってこと?」
僕はそう聞き返す。すると彼女は少しニヤリと笑ってこちらを向きながら、
アルティノ「まあバカラバカラと言っても察する脳みそは持ち合わせているのね。見直したわ」
と言った。
前原「そりゃそうよ。僕が良く見てるNetfelixのアニメで何回も見て、いや体験してるから」
なるべく異世界人に分かりやすく伝える方法で僕はそう言う。だけどもそれが彼女に疑問を与えることになったのはまた別の話。
その瞬間目の前の騒乱では幼馴染みの女を抱き上げる初代魔王の姿が虚空の涙を流している。しかもその魔王の腕には、いや人指し指と中指には彼女の右手にある物と同じものがきらりと光っていた。
前原「おーぅまぁーじぃーか」
まるで“天使にラブソングを”に出てくるノリノリな聖歌隊の空耳のようにいいながらその惨状を笑っていた。実際あれは“Oh, Maria.(おお、(聖母)マリア。)”と言っているので完全に空耳ではない。しかし嘘字幕シリーズで汚染された彼の脳みそは自然におぉまじかと翻訳してしまったのである。そう、ミーム汚染である。
アルティノ「どこがよ?別にただ殺されただけじゃない「いや違う違う。指!指見て!」
ああ結婚してるわね。そう、その殺された方の彼女は魔王の幼馴染。しかもこの後結婚する予定だったの、だけど節度も持たない、いきなりやって来るバカラのお友達みたいに勝手に近寄った結果ああいう惨状を招きかねないわけなのよ!」
そんな彼女は少し怒りながら、先の二人の刺客兼元前原悟との冒険を共にする者たちを少しディスっていた。
しかし彼女はその怒りを超え、そしてそのシーンを超えて、早送りした暗い城の中、彼は龍の毛皮と骨であしらったであろう玉座に座っている。そして、何よりも驚いていたのは周囲にオーク、ゴブリン、フラワーエルフ、ドラゴンなどがその周りに列を成すように座っていたことだ。
「ここに魔王国を今日より建国する」
と宣言する。その瞬間、周りのどの種族、誰もが彼に跪いていた。この時こそ、僕たちが見ている中でも彼が魔王と呼ばれるようになった瞬間であった。そしてその投影は次第に薄くなっていき、元ある書斎に変わっていく。彼女が本を閉じ始めていたのだった。
アルティノ「これが初代魔王の魔王国創生期。どうだった?」
そして完全に本を閉じた第155代魔王は、彼女から勇者として定められている僕に何か感想を欲す。
前原「うーん・・・ちょっと気になった所が一点」
アルティノ「なによ、文句?」
そんな僕の態度をどこか許さない彼女は、僕をジト目で睨むように聞いてくる。
前原「魔王国ってあったんだけどさ、今ある魔王軍領と何か違いがあるの?」
アルティノ「ああ魔王軍領はね、まあ大きな違いがあるとするなら政治体制ね。魔王国は魔王一人による独裁体制だったのだけど、魔王軍領はそれを打開して複数の種族による議会体制を築いているっていう感じよ」
意外にも現在の魔王は民主的であった。というか逆に人類側の王国よりも良いんじゃないかとも思った。しかし、民主主義というのはその対となる物よりも非合理的で、それ故に非効率的であるという事を僕はまだ知らない。そのことやものの意思決定に対しての課題が、無限に発生するという事を。
アルティノ「どうしたの?」
そんな一つの領主である彼女は、不思議そうに僕の顔を覗きながら聞いてくる。
前原「いや、少し考え事をしていただけだよ」
しかし、そんな彼女の不思議がる心を何とか抑えるように誤魔化す。そんな誤魔化しも彼女の心を読み取るものには効かない。
アルティノ「別に今の体制はそんな理想郷っていうわけじゃないわ。まあ私も小さい頃はそう思っていたけど、だけども仕事は減らないし、寝る時間は遅くなったしで・・・」
その一興に乗じて彼女は不満をグチグチと漏らす。すると、それを断ち切るかのように
グゥゥゥ~~~・・・
と、彼女のお腹から音が鳴った。
アルティノ「今のは心を読まなくても分かるでしょ?ちょうどあなたにもこの魔王軍領の政治体制の問題を味合わせるためにも打ってつけだし、さっきの会食場を使おうじゃないの。腹ごしらえのついでに」
僕の目の前に立って、右手を掴んでその場所から出ていく。まるで遊園地に子供に手を引かれながら先導されるお父さんのように。
アルティノ「ほら、こっちこっち。主役が居ないと始まらないわよ?」
変な事を言われるもんだ。そもそも開発者を主役にすること自体がゲームにとってなかなかのチャレンジだってのに。任ナンチャラ堂の社長を出すならまだしも、だ。ニーアのアレの概念なら僕と言うのは裏ボスみたいな立ち位置なのかもしれないが。
そうして僕は彼女に引かれるがまま、先ほど立ち寄った会食場、いわばパーティ会場に連れて行かれる。