そんな彼女は赤子のように泣いていた。先ほどの魔王とは違って、今度は15歳の少女がその玉座に居た。でもそれは、外面は明らかに魔王であるのに、その口調が、自分の脳みそが違うと言っているように。今ここで右にあるナイフを魔王に向けて投げてみようと一つ考えたその瞬間、頭の中に変な物が流れてきたのだ。恐らく彼女なら人指し指と中指の間で、目の近くでキャッチするだろうと安心した悪戯心で。でもなぜか今は自分が魔王に道徳心と言う名のナイフを向けられている感じがして、その何か切るためのそれを投げられずにいた。逆にそんなことはしない、大丈夫だよと言う感じに心で考えると目の前の魔王は15歳の少女から魔王と呼ばれる忌まわしき存在へと変貌していた。
そう、突如頭に現れた“存在しない記憶”である。いや、幻視であろうか。その存在が本当に彼女なのか分からなかった。
アルティノ「マエハラサトルが魔王になることに異議がある者、手を挙げよ」
その魔王に戻った彼女は、玉座から言葉を発する。それは僕が魔王への是非についての事だった。さきほどまで魔王を倒したものが魔王になるという闘争みたいなことを言っていたのに、なぜか今見ているのは民主主義の基本である多数決だった。
前原「えっと~・・・魔王を倒したら、その倒した奴が魔王になる・・・ってことだよね?え、今なんで僕の是非を聞いてるの?必要ないんじゃない?」
僕はそう言うと、魔王アルティノは少しため息をついて、「あぁぁぁぁ~!」
アルティノ「見て分からない?あなたのためにやってるの!代表の中に誰か他に反対してる者が居ないか確認!その方が魔王になった後でもまともにやっていけるでしょ?」
まあ言うなればそうかと僕は理解していると、彼女はもう一度、その採決をどうするかと訪ねる。すると一人のオーク、つまりは先ほどから人間であると決めつけて魔王になる事を断固反対しているクボウともう一人、フラワーエルフが手を挙げていた。
「わ、私は・・・だ、断固反対ですっ!!」
彼女はまるで口に何か詰まっているように話しており、そしてどこか下を向いていた。おそらくコミュ障なのだろうと僕は学生時代の友達を見るような目で、そのフラワーエルフを見る。髪は少し赤身がかった橙色の髪の毛で、少しぼさぼさの髪型で、そして彼女の種族を決定せんとするハイビスカスの髪飾りを持ち、そしてエルフと呼ばれる由縁の長い耳を持ったフラワーエルフ・・・の代表がそこで椅子に座りながらもじもじとしていた。
その断固反対を聞いていた魔王は少し、彼女を訝しんで、
アルティノ「なぜだアロアロ?」
と聞く。すると、
アロアロ「な、なぜなら・・・」
と言葉を数個並べていたが、ふと上を見上げた瞬間、彼女は怖気づいたような顔で
アロアロ「い、いえ・・・なんでもありません・・・賛成です!マエハラサトル様が魔王になることは賛成です!」
と、言葉を濁して叫んでいた。両手を胸の前で結びながら。僕は彼女が見上げた先を見る。すると黒いローブを着た何かがこの上にある階から去っていくのが見えた。その黒い布の一片がひらりと。
いきなりどうしたんだと、そのフラワーエルフの彼女を見ると絶望した顔をしていて、口で何か言っていたが何を言っているのかはこちらに聞こえなかった。
アルティノ「???」
そんな魔王は演技に呆気に取られていた。
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踊る会食場を済ませた後、クボウ、アルティノを除く代表たちはそそくさと帰ってその場から消えていった。僕は先ほど一対一の決闘を申し込まれたので、黙らせてやろうと思いま~す。っていう死亡フラグをちゃんと立てて、その闘技場がある場所に連れて行かれる。オークのクボウにではなく、魔王に。
アルティノ「まあよくある事よ?実際私も魔王になった瞬間に決闘を挑んできた者がいるくらいだから。まあガバナーの都市で挑んできた、あなたのお友達と戦ったときみたいにすればいいだけよ~!」
彼女はそう言って、僕の肩をバシッと叩いて“勇気を出せ”と言わんばかりに応援をし、その叩かれた反動によって僕は闘技場の中へと入ってしまった。
前原「え~どうすんの!?結局受けちゃったけどさぁ!」
僕は彼女に不平不満を申し立てるが、
アルティノ「まあ簡単に捻りつぶせばいいから~!」
そう彼女は言った途端すぐに闘技場へ入る大きな門がバタンとすぐに閉じた。
前原「あっ、閉まった。・・・魔王~?魔王様~?う~ん、これじゃダメか・・・アルティノ~!ア・ル・ティ・ノ~!これもだめか、アルちゃ~「おい」
その中、砂に包まれた地面、円形状に囲われたコロッセオに似た闘技場にて、僕の目のすごい先には大きなオークが待っていた。しかもそいつは先ほどのように布を巻いただけの服ではなく、完全に鎧を着て待っていた。
前原「あかん、フル装備や勝てん。100パー勝てんなぁ」
僕は100パーセントを少しイントネーションのある言い方でいう。よふかしするアニメの中にいる探偵のように。
僕は完全に敗北を悟っていて、もう勝ち目はないと思っていた。しかし、そのずっと先とは一転、目と鼻の先にある武器の棚が目に入った。斧や槍、盾に弓まで手広く揃えていた。
僕はあの時と同じように、かつて魔王の護衛である3人のゴブリンと戦った時のように、あの時と同じような装備で向かう。そのために掴む所だった。
前原「まあ厨パ装備で行ってみるか。これでゴブリン倒したんだから楽勝っしょ?」
僕はそんなありもしない事を呟きながら、右手に剣を持とうとする。しかし、どこかその剣は前の物より違和感があった。
前原「まあやっていきましょっ・・・て重!?なにこれ黒の剣士用?スターバーストストリームで50連撃やるって結構苦行な事なんだなぁ・・・よくやったなぁあの人。すげぇよ」
明らかに前回の物より重かった。確かにそうである、あの時手に入れた最初の物は羽のように軽い、だれでも持つことが出来るような魔法が織り込まれていたのだ。
流石に重すぎて持てなかった為、もうこの剣は使えないと思って武器を変え、あえて槍にしてみた。簡単に扱えると自分の独断と偏見で思ったからだ。でも剣術の極意という物が僕のスキルの中にあった筈なんだけど・・・でも使うには修行の道があるとかないとかの物だろう。