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第6話

クボウ「もういい、殺してから聞こう」

アルティノ「クボウ。辞めろ、私はマエハラサトルと最後の戦いをする為にここに招待した。なのに貴様が殺す?笑止千万っ!!貴様が殺していいほどの価値が低いニンゲンではないっ!!」

しかし、その強い言葉を何かひらりとかわすように、

クボウ「くだらぬ。貴様も魔王アルティノもっ!全ては吾輩にとって塵に同じよっ!!!」

そう言って、殴ろうとする。ここで僕はやっと、やっと何か掴めるものがあった。それは怒りだ、何か大事な物をけなされた怒りが。まるで深夜アニメを見ている時に偶然推しの陰口を言う奴や貶す奴がSNSに出てきた時は誰でもㇺッとするのだ。

僕はその掴まれた胸倉を、そいつの小指を自分の力を出してえげつない方向へと回す。するとそのオークは「グわわわぁっ!」とうめき声を挙げてその力を離す。僕は地面にどさりと落ち、そのオークはというと指が反対方向にひしゃげており、そこを抑えている。

クボウ「て、てめえこの汚らしいニンゲンがっ!ニンゲン如きの分際で吾輩にっ!!」

こっちは当然だと言わんばかりに、しかしその怒りはどうにかして戻すことが出来た。僕はアニメに救われた、そして推しも出来た、色々と何人も。嫁とまではいけなかったが。そしてここでも誰に救われたか、同じようなサブカルチャーのゲームの少女、しかもそれが15歳の魔王なんて、推さずにはいられないっ!!

クボウ「貴様・・・覚えておけ・・・この戦いはいずれ決着をつける時が来る・・・」

そう言いながらオークは、自分の机に配膳されたスープとサラダを野蛮に手でかっ食らい、ドスッと大きな音で椅子に座った。その一部始終を見ていた他の代表、いや幹部は皆それぞれ別の顔をしながら驚いていた。例えば白髪のサインは少し微笑むように、口元を自分のマントで覆ってクスリと一笑い、また右側の女性陣は少しこちらを見て微笑んでいる。しかも頬を紅潮させながら。

そして玉座にいる魔王は、ニヤリと口を上げながら。

アルティノ「見よ!これが後の魔王となる器である!皆も先の事で信じただろう。そしてもう一つここで話さなければならない事がある。それは私の事についてだ」

その状況に乗っかって、何かしら宣言をしようと動いている。

アルティノ「私は私の死を以て、通常通りの慣例に基づいて魔王を退任する。」

それは彼女の退任でもあった。その宣言が出された途端、周囲はまた先ほどのようにざわつくのではなく、誰もいない湖、フリーズしたパソコンのように静まった。ある者を除いて。

「・・・ぬ」

その声は小さかったが、その図体の大きさが誰かを名指しで注目させる。その声がした途端、静まり返った声の主達がその方向を確認する。それは、先ほどまで前原悟と戦っていたオークのクボウだった。

クボウ「・・・成らぬッ!!我らが魔王様が退任されることはっ!!」

そう言いながら目の前にあるテーブルをドンとその大きな両手で叩き、辺りにその食材やご飯を散らばらせた。

前原「てんめ、ご飯にたいして・・・」

こっちはその横暴さにカッとなる以外に選択肢が無かった。だってその拳の反動で配膳されたスープやサラダが地面に落ちてしまったからだ。それを挙句の果てにそいつの足で踏んで、粗末にしたんだからキレざるを得ない。こっちはカップラーメンすら食えずに過労で死んだんだぞ?それなのにお前はここで、高級そうな飯を食っておきながらずけずけと偉そうに言いやがって。もういいこの話を小説にしてこの世界でアニメ化して印税で稼いでやる!

前原「黙れよ・・・デブ野郎・・・!」

立ち上がった前原、キレた____!

その大きな怒りは玉座にふんぞり返る魔王も気づき、少し笑みを浮かべていた。

クボウ「ほーぅ?この吾輩にそんな盾突く暇があったとはなぁ・・・」

その図体の大きな奴はこちらを一目見て、そう呟く。しかし、そいつはその後何も言わなくなっていた。そこで、その代わりとして椅子のひじ掛けに頬杖を突いている魔王が

アルティノ「一対一の対戦を許可する。時はこの食事会の後、場所は城内闘技場にて、片方が参った、あるいは戦闘不能になった瞬間に最後まで立っていた者が勝利とする。」

とさらに宣言した。

僕も少しキレていたことに期待してゴーサインを出していたのだろう。僕は次の料理が出るまでの間、そのクボウを見ていた。そしてクボウもこちらを見下ろして。

「お食事をお持ち致しました~・・・」

その時、僕の背中の方から複数人のウェイターの服を着たゴブリンが入ってきて、各々の皿に食事を配膳する。見るとメインディッシュのような物だ。見た感じおいしそう、まるでアニメの飯テロを見ている雰囲気に駆られた僕はその匂いで、その空腹すぎてなんでも食べられてしまう程に参ってしまっていた。

前原「まあいいや、えっと・・・これって何?」

目の前に配膳された皿に乗っていたのは、見た感じローストチキン。その周りにはブロッコリーやニンジンなどの温野菜と、右上に米が小さなドームを作っていた。まるでクリスマスの時に食べる、いや僕としては一回も食べたことは無いが、見た感じおいしそうだった。おそらく彼女の配慮でニンゲン用の食事を作れとお達しがあったのだろう。

アルティノ「ニンゲンでも食べられる程の食事よ。味はどう?」

僕は見た途端すぐに飛びかかるように右にあるフォークを持ち、少しザクリとして一口食べる。するとその口から肉汁がじゅわりと出て、舌を躍らせた。この世界に来て初めての食事がこれと言うのは少し贅沢すぎるように思えたが、それでも僕を涙させるようにおいしく出来ていた。

前原「おいしい・・・です・・・」

そんな僕は声を挙げて感嘆する。まるで二日酔いの夜明けに食べる卵かけごはん並のおいしさがあった。

クボウ「・・・ふんっ!」

その隣の奴は一口も食べていないが。僕はそのまま水をグビッと飲んで、その肉を胃の中に流し込む。しかし、この行為が後に僕を苦しめることになるとは、この時の僕は未だ知らない。

アルティノ「ふむ、満足しているようで私もうれしい。前原悟よ、この食事会に参っていただき感謝する」

そんな彼女は感心してそう言っている。しかもどこか微笑みながら。まるで笑顔を子供にかける父親のように。その目を見ながら、僕は左にあるフォークでその肉片を刺して口に頬張る。まるでお子様ランチを食べる子どものように。そう言えば飯のアニメといえば誰かさんがネットショッピングという能力で手に入れた肉を使って、なんか伝説級の魔物を餌付けしてたなぁ。トップバリュが差し向けた刺客かと思ったけど・・・今は多分僕がなんか伝説級の魔物で、そして魔王がおそらくその主人公にあたるのだろう。

アルティノ「それで・・・先ほどの採決を同時に取ろう。異論はないな?」

その魔王の口調は、明らかに15歳の少女と捉えるには、その口調では明らかに貫禄があり、もはや目を閉じれば完全に誰も彼女が幼い少女であることを感じられない程だった。むしろこっちがアルティノにギャップ萌えしそうなのが、それをさらに強める。

彼女がこの城と、この土地を、この魔王軍領を取り仕切る大物であることは間違いないと自分は分からされた。

アルティノ「殺さないで!殺さないで!」

彼女が目の前でそう叫ぶ。いや、こちらの耳に聞こえてくる。

前原「え?」

僕は思わず疑問が飛び出た。

アルティノ「わたし、いいこにするから。いいこにするからぁ・・・」


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