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第10話

その瞬間、上からいきなり薄い壁が落ちてくる。まるでギロチンのようにして。幸いにもそのコンマ数秒で体が動いて避けられたものの、ヴィトとは離れ離れとなってしまう。

前原「あっおい、ヴィト、ヴィト!聞こえるk「聞こえるわけ無いじゃないですか」

その彼女を呼ぶ声と叩く音は、後ろにいる散弾男なサイコパスがかき消す。

ABS553「さて、前原悟様。今回はどうもありがとうございます、この私の交渉に乗っていただき。決して悪い思いはさせませんのでどうか




”ご協力”を」

そんな彼のセリフが何処か胡散臭く感じる。どのくらいの胡散臭さかというとマルチ商法やってる親友並だ。

前原「お、おう・・・」

彼は僕に、アルファ掲示板を使って、とある魔法をダウンロードするように迫る。しかしそれはパブリックの方ではなく、プライベートのDMに送られてきた。

その名は

“Unity”

おいこらABS553、ただでさえ著作権スレスレのデッドヒートで夜中書いてるっていうのに他人の知的財産を出すんじゃない。しかもUnityて、Unityて、このアイセラ大陸もそのゲームエンジン使ってるんだぞ?この大陸の人間を思いのままにコントロール出来ちまうんだぞ?

前原「これをダウンロードすれば良いってことか?」

ABS553「左様でございます、前原悟様」

やけに下ったな、こっち側に入った途端味方だから優しくするってことかよ。

だけども、僕は何か殺されそうで気が気でならない。その恐ろしい威力を持つ銃のお陰で、その気迫のお陰で何を繰り出すか分からないのだ。

ここで刀を引いて攻撃してみるか?そんなありもしないクレイ爺な考えが今、僕の頭に冷静にあった。僕は彼に気づかれぬようゆっくりと自分の武器に手をやり、シャキンと居合のように切りかかる。

だけどもその瞬間、世界が一瞬だけ止まったように感じて、そして先ほどまで切り込もうとしていたABS553の姿が塵を一つも残さずに目の前から消えていた。

ありのまま今起こった事を話さなきゃいけないか?俺はさっきこいつを確実に殺せると思ったんだ。だけどな、

ABS553「殺せるとでも思いましたか?」

殺されるのはこっちの方だったみたいだ。俺の左でそいつが散弾銃を片手でこっちに向けている。これじゃあ俺の脳みそが簡単にイチジクの中身かサファイア級の井村屋の小豆バーを叩かれたやわもちアイスみたいになっちまう。その居合は、確実に何か仕掛けのある何かだと感じた。

ABS553「残念ですよ、マエハラサトルさん。結局この後に及んで、残念です。この私の正義が全く何も分からないとは!」

この部屋の中を平行移動してこちらに向いているような感じであった。すると彼は何か、その信者達が共通して着けているペンダントから

「やれ」

と指令を下らせる。そして僕はやらかしたことの重大さを今思い出した。それはその男、ABS553にすべてを握られているからこそ、そいつがいとも簡単に

前原「・・・おいおいおいやめろやめろやめろっ!!!なんでもする!なんでもするから、そのっ・・・彼女だけは殺さないでくれっ!!!」

僕はその行いについての事を謝ろうとするために、銃口の目の前を振り向いて泣くように縋ろう、それで許しを乞おうとしている。こいつころっころころっころ入れ替えるなぁこの野郎。そんな奴には地獄がお似合いだぜ!

すると彼、ABS553、アブソリュートは自分のメガネを外す。それは彼の本当の素性を隠すためのただの仮面にしか過ぎなかったのだ。

ABS553「五月蠅いハエみてえな奴だな、お前は。今頃何なんだ?殺そうと思って刀を抜いたら『殺さないでください』、『恋人だけは助けてください』。お前虚言癖か何かか?言ったろ?裏切るならどっちも殺すって。お前痴呆か何かか?」

そのメガネが落ちて、そしてそいつの足でパキッと割れていく。その足元から上を見ると、どこかその、ABS553の顔に見覚えがあった。

前原「もしかしてお前・・・あの時の勇者かっ!?」


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