いつも通りの日常が戻ってきた。お祭り騒ぎも良いけど、やはり毎日だと疲れてしまう。それは全員同じだったみたいで、この日常に何処か安堵している様に見える。
昼休みに部室に集まった時、真っ先に抱いた感想がそれだった。
「では、文化祭も終わったことですし心機一転して頑張っていきましょう~!」
月影の幼い声で言われると、力が抜ける。
「という訳で、今回の夢の主さんのお話をしたいんですけど……。皆さん、この学校のサッカー部の期待の星、ご存知ですか?」
「佐久間奈切か。僕は知っている。彼は同じ中学校だったからな」
……佐久間? いや、まさかな。とは思うが、こういう時の予感ほど的中してしまうのは何故なのか。
「そうです! あの佐久間先輩の弟さんで、ライブをしていなかった方の……。夜見くん、流石ですね」
「それで、奈切先輩がどうしたんだ」
「今日はやけに食いつきが良いですね、夜見くん。何か関係でもあるのですか? 奈切先輩はここ数日、サッカーのインターハイに出て自分が決勝ゴールを決められず、責められるという夢を見ているそうです」
暁人は手元に残った菓子パンを頬張り、呑み込むと話し出した。
「佐久間奈切先輩は、佐久間家では異端児扱いされているそうだ。本人から聞いたことがある。それで、僕と先輩の関係だったな。僕は中学校の時の部活は、サッカー部だったんだ。ということは当然、先輩がいる。僕は先輩とは違って不出来な方だった。にも関わらず、先輩は面倒を見てくれた。僕は今でもそのことに恩義を感じているし、先輩が困っているなら力になりたいと思っている」
暁人が運動部系の部活を選ぶなんて意外だ。勝手な偏見は良くないが、文芸部辺りに居そうなのに。
「そうだったんだ。じゃあ、今回は恩返しのチャンスだね」
咲夜が口を開くと、暁人は複雑そうに「そういうことになるな……」と返した。
「では、今回の偵察は夜見くんに任せるのが一番いいでしょうか」
「任せて貰って構わない。先輩とは今でも面識があるからな。もっとも、悪夢の話をされたことはないから苦戦するかもしれないが」
暁人は部室を出て行った。先輩のところに行くのだろう。残された俺たちは、とりあえず暁人を待ちながら問題点を整理する。
「要は、先輩がゴールを決められれば良いんだろ。何で決められないんだ?」
「インターハイの決勝、ともなると流石の先輩も足がすくむとか……?」
「足がすくむのではなく、転ぶ可能性もあるわ」
「実際、何故なのかはその日によって変わるみたいです。運ですね」
今までの中でも、攻略が厄介な部類なのはわかってきた。しかし、厄介だからと言って放っておくわけにもいかない。
「夜見くん、遅いですね~」
「話が盛り上がっているのかもな。もう昼休みも終わるし、一度教室に戻ろう」
俺たちは、各々の教室へ戻った。