翌日、俺たちは一年B組の前に立っていた。人を呼ぶという行為は、未だに慣れない。しかしこのままでも不審なので、意を決して扉を開ける。
「あの、すみません。落合新くん、いますか?」
比較的教室の手前側に座っていた男子生徒が、「何でしょう」とこちらに振り返る。
「落合新は私ですけど」
ツリ目がちな瞳が印象的な顔だった。その目線が、俺たちに投げかけられる。
「何かご用ですか」
「率直に訊こう。最近、悪夢をよく見ないか?」
暁人は躊躇わず訊いた。しかし、それで答えが得られるほど甘くないのはわかっている。案の定、「何言ってんだコイツ」とでも言いたそうな顔をしている。
「見ていませんし、仮に見ていてもあなた方に関係はないでしょう」
俺たちは、教室から追い出されてしまった。そこに、一人の女子生徒から声をかけられた。
「貴方たち、新とはどんな関係? 初めて見る顔だけど」
新と同じ、ツリ目が特徴的な生徒だ。長い黒髪は、かつての望月を連想しないでもない。
「そういうお前は誰なんだよ」
「あら、失礼したわね。私は落合神楽。新の従兄妹よ」
従兄妹が用とか、良い予感がしない。いや、でも逆に利用すれば情報を引き出せるかもしれないな。
「俺は夢野獏、こっちは夜見暁人。実は、落合くんが悪夢で悩まされているって話を聞いたから二人で様子を見に来たんだ」
「新が? そんなこと一言も言ってなかったけど……」
訝しげな目線が突き刺さる。
「まあ、いいわ。私に隠し事しているのなんて、いつものことだもの」
あまり仲が良いとは言えない様だ。というか、神楽の一方通行感がある。
「私が力になれたら良いとは思うけど、多分新は私に心を閉ざしているから難しいでしょうね。悔しいけど、貴方たちのサポートに徹するわ。新のことなら何でも訊いてちょうだい」
そこで、昼休みが終わったので残りは放課後三人で話し合うことにした。