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第76話

 放課後、部室には行かず神楽が指定したカフェに三人で集まった。

「新の何を知りたいの?」

 頬杖をつきながら、コーヒーを飲む神楽。注文した品物がブラックなところ見ると、相当飲み慣れているのだろう。

「うーん……何で金に汚いのか、とか……」

 現状、彼の情報をそれしか持っていない。後は誰にでも敬語でいることくらいか。神楽は額に手を当て、「あぁ……そのことね……」と一人で呟いている。

「新の家は、所謂消費者金融の役員の家なのよ。だから、破産する人を何人も見てきた。それで、自分はそうなりたくないって気持ちが強い……んだと思うわ。新のことは傍で見てきたから、よくわかる」

 一人で頷く神楽はさておき、だとすると悪夢も金関連のものでありそうだ。

「実際、校内でこっそり金貸しやってるしね。新に借金している生徒も、それなりにいるはずよ」

 思ったよりあくどい奴だった。それでも任務である以上、救わなければいけないのも事実だ。

「……それで、他に訊きたいことは?」

「落合って誰に対しても敬語だが、それに意味はあるのか?」

 暁人が質問した。それは俺も引っかかっていたことなので、頷く。

「あれは……高校に入るまではそんなことなかったのだけれど。やっぱり裏金融もどきをやっているから、他の人とは一線引きたいのかも。私は敬語で接されたことがないから、完全な憶測だけれど」

 学校で裏金融なんてするな、と思ったがもう広がっている以上止めるのは難しそうだ。それにしてもそんな噂、聞いたこともなかったが……。大きな学校だから闇も深いのだろうか。

「そうか、ありがとう。後さ、落合って子どもの頃どんな性格だった?」

 彼のことを何一つ知らないまま夢に乗り込んでも、任務失敗の可能性が高い。もう少し探りを入れておこう。

「子どもの頃? 金には汚かったけど……。普通の、何処にでもいる子どもだったと思うわ。金に汚いから将来は心配だったけれど、まさか高校からやり始めるなんて……」

 神楽は神楽なりに苦労しているらしい。それでも言葉の節々に好意が滲み出ているのだから、恐れ入る。愛の力は強し、らしい。それを言ったら、俺と咲夜もそうなるのか。幼馴染という点も彼らとは共通しているし、あまりとやかく言える立場ではない。

「ありがとう、礼の代わりにここは奢るよ。世話になったしな」

「こちらこそ、新が悪夢を見ているなら解決してあげたいし。でもここは奢られておくわ。ありがとう」

 俺は千円札を三枚財布から取り出し、会計する。暁人と神楽は店の外に出て行った。

「新のこと、頼んだわよ」

「任せろ」

「じゃあ私、こっちだから」

 神楽は俺たちを背にして去っていった。

「……帰るか」

「僕は、やることが出来た。夢野は帰るといい。お疲れ様」

「やること?」

「大したことじゃない。落合新のことで、少しな。一人の方が都合良いから、夢野は帰っててくれ」

「……わかった」

 暁人は心配だが、そう言われると手出しは出来ない。

「気をつけろよ」

 それだけ言い残し、俺もその場を後にした。


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