放課後、部室には行かず神楽が指定したカフェに三人で集まった。
「新の何を知りたいの?」
頬杖をつきながら、コーヒーを飲む神楽。注文した品物がブラックなところ見ると、相当飲み慣れているのだろう。
「うーん……何で金に汚いのか、とか……」
現状、彼の情報をそれしか持っていない。後は誰にでも敬語でいることくらいか。神楽は額に手を当て、「あぁ……そのことね……」と一人で呟いている。
「新の家は、所謂消費者金融の役員の家なのよ。だから、破産する人を何人も見てきた。それで、自分はそうなりたくないって気持ちが強い……んだと思うわ。新のことは傍で見てきたから、よくわかる」
一人で頷く神楽はさておき、だとすると悪夢も金関連のものでありそうだ。
「実際、校内でこっそり金貸しやってるしね。新に借金している生徒も、それなりにいるはずよ」
思ったよりあくどい奴だった。それでも任務である以上、救わなければいけないのも事実だ。
「……それで、他に訊きたいことは?」
「落合って誰に対しても敬語だが、それに意味はあるのか?」
暁人が質問した。それは俺も引っかかっていたことなので、頷く。
「あれは……高校に入るまではそんなことなかったのだけれど。やっぱり裏金融もどきをやっているから、他の人とは一線引きたいのかも。私は敬語で接されたことがないから、完全な憶測だけれど」
学校で裏金融なんてするな、と思ったがもう広がっている以上止めるのは難しそうだ。それにしてもそんな噂、聞いたこともなかったが……。大きな学校だから闇も深いのだろうか。
「そうか、ありがとう。後さ、落合って子どもの頃どんな性格だった?」
彼のことを何一つ知らないまま夢に乗り込んでも、任務失敗の可能性が高い。もう少し探りを入れておこう。
「子どもの頃? 金には汚かったけど……。普通の、何処にでもいる子どもだったと思うわ。金に汚いから将来は心配だったけれど、まさか高校からやり始めるなんて……」
神楽は神楽なりに苦労しているらしい。それでも言葉の節々に好意が滲み出ているのだから、恐れ入る。愛の力は強し、らしい。それを言ったら、俺と咲夜もそうなるのか。幼馴染という点も彼らとは共通しているし、あまりとやかく言える立場ではない。
「ありがとう、礼の代わりにここは奢るよ。世話になったしな」
「こちらこそ、新が悪夢を見ているなら解決してあげたいし。でもここは奢られておくわ。ありがとう」
俺は千円札を三枚財布から取り出し、会計する。暁人と神楽は店の外に出て行った。
「新のこと、頼んだわよ」
「任せろ」
「じゃあ私、こっちだから」
神楽は俺たちを背にして去っていった。
「……帰るか」
「僕は、やることが出来た。夢野は帰るといい。お疲れ様」
「やること?」
「大したことじゃない。落合新のことで、少しな。一人の方が都合良いから、夢野は帰っててくれ」
「……わかった」
暁人は心配だが、そう言われると手出しは出来ない。
「気をつけろよ」
それだけ言い残し、俺もその場を後にした。