深夜零時、月谷ネットカフェに俺たちは集まった。点呼をとった後、月影は言った。
「今までの夢とは毛色が違うので、気を付けてくださいね」
「おう」
目を瞑ると、月影が先導してくれた。しばらくすると、月見野学園高校が見えた。また学校が舞台なのか……と思ったが、そんなことを考えている暇はない。校門から入ると、そこには新が立っていた。
「おい、落合」
彼は振り向いた。瞳の中の光がなくなっていることに気がつき、二言目を継げなくなる。
「貸せるお金はありませんよ。誰からも返ってきていませんから」
どうやら、ヤケになっている様だ。自分が破産した側に回ってしまったことに耐えきれないのかもしれない。
「違う、ほら。返しに来たんだ」
暁人は数枚の千円札を、新に手渡した。新は目を見開き、「人が良すぎるでしょう」と笑った。
「借りたものは、返すのが当たり前だろう」
「そんなもんですかね、わかりませんけど」
新の置かれてきた環境では、返さない人も沢山いるのだろう。返済能力がないとかで。社会の暗部を見てしまった感じがする……。だからこそ、新は落ちぶれることを悪夢として認識してきたのだろう。
「ところで、何で闇金融なんて始めたんだ? それも、こんな好条件で」
「シミュレーションですよ。将来のことを考えての、ね。神楽からどこまで聞いたかはわかりませんが、私の家は消費者金融関係の仕事をしています。自分も将来継ぐことになるだろうと思い、シミュレーションをしていたという訳です」
確かに、シミュレーションだと言われればそうなのだろう。新には、将来家業を継ごうという意志も見てとれる。それは、この闇金稼業で散々わかっている。
「実際の金を使ってか?」
暁人の声が、低くなる。
「そうです。その方がリアリティがあるでしょう?」
「ふざけるな。金は労働の対価だ。気安く遊びに使っていいものではない」
こんな暁人は初めて見た。怒っているであろう暁人は、あくまでも落ち着いている。
「遊びのつもりではなかったのですが、考え方の違いでしょうね。私は貴方が嫌いです」
「僕も、貴様のことを好きになれそうにない。だから、明日金を現実で返したらさようならだ」
いつになくよく話す暁人。新に言いたいことがこんなにあったとは、俺もびっくりだ。暁人が言わなければ俺が言っていたんだろうけど。言い争いが激化する前に、さっさと悪夢を呑み込んでしまおう。
「———食らうぞ、この悪夢!」
視界が暗転する。次に意識が浮上した時には、おじさんのネットカフェにいた。
「暁人、思ったより話すんだな」
思った通りの感想を言うと、
「ああいう奴は嫌いなんだ。労働の価値もわからない人間は」
「それはわかる。まぁ、これから話すこともないだろうし忘れようぜ」
「そうだな」
暁人はまだ少しご立腹のようだった。
「それじゃあ、今日は解散にしましょう~! また朝に!」
月影の号令で、その場は解散になった。