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第81話

 そう言えば、同じクラスなのに月影のことを俺は何も知らない。本当に高校一年生なのか疑わしいビジュアル、丁寧な言葉遣い。それ以外の月影の情報を、俺は持ち合わせていないのだ。俺だけではない、ドリームイーターズの誰もが同じ状態だろう。「お前、何者なんだ?」と訊こうにも機会がない。それに、訊けたところで適当にあしらわれるのがオチだ。それなら、訊かない方が良いのかもしれない。

「どうしたんですか?」

「あ、いや。何でもない……」

 こんなことを考えてしまうのは、月影と部室で二人きりだからだ。彼女と一対一だと、中々会話が生まれず考えることが増える。月影と共通の話題なんて、クラスのことくらいしかないし。

「そういや、大分先のことになるんだけど。部でクリスマス会やるだろ。月影は何か好きなものとか、あるのか?」

 無難な話題から攻めようと思ったが失敗した。こういったものは内緒だから面白いのであって、教えてしまったら意味がない。

「好きなものですか……それを教えてしまったら、意味がないのではないでしょうか?」

 案の定だ。完全に俺の失策である。月影は、でも、と話を続けた。

「私は、今こうして皆でわいわいするのが好きです。昔の私だったら、ありえなかったなと思うので」

 それってどういうことだよ、と訊く前に皆が入ってきたのでこの話題は打ち切りになった。


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