そう言えば、同じクラスなのに月影のことを俺は何も知らない。本当に高校一年生なのか疑わしいビジュアル、丁寧な言葉遣い。それ以外の月影の情報を、俺は持ち合わせていないのだ。俺だけではない、ドリームイーターズの誰もが同じ状態だろう。「お前、何者なんだ?」と訊こうにも機会がない。それに、訊けたところで適当にあしらわれるのがオチだ。それなら、訊かない方が良いのかもしれない。
「どうしたんですか?」
「あ、いや。何でもない……」
こんなことを考えてしまうのは、月影と部室で二人きりだからだ。彼女と一対一だと、中々会話が生まれず考えることが増える。月影と共通の話題なんて、クラスのことくらいしかないし。
「そういや、大分先のことになるんだけど。部でクリスマス会やるだろ。月影は何か好きなものとか、あるのか?」
無難な話題から攻めようと思ったが失敗した。こういったものは内緒だから面白いのであって、教えてしまったら意味がない。
「好きなものですか……それを教えてしまったら、意味がないのではないでしょうか?」
案の定だ。完全に俺の失策である。月影は、でも、と話を続けた。
「私は、今こうして皆でわいわいするのが好きです。昔の私だったら、ありえなかったなと思うので」
それってどういうことだよ、と訊く前に皆が入ってきたのでこの話題は打ち切りになった。