翌日の昼、俺は「高尾、ちょっと」と彼を呼びだした。月影は、俺の背後に隠れている。やはり怖いのだろう。
「夢野か。珍しいな、何かあったのか?」
髪を金色に染めている高尾に話しかけられるのは、クラスの中でもごく少数の人間に限られる。要するに皆から怖がられているのだ。
月影が居る以上、彼女の話題は避けた方が良いだろう。
「いや、実は橋本が最近お前のこと心配しててさ。眠れないんだって?」
橋本とは、高尾に話しかけられるほぼ唯一の人材だ。幼馴染で、仲も良い様に見える。
「あいつ……。お前らには関係ないだろ!」
「関係なくても、もしクラスメイトが困っているなら救いたいんです!」
我慢が出来なくなったのか、月影が飛び出してきた。高尾は目を丸くして「月影!? いつから……」と驚いている。
「べ、別にお前らの助けなんて必要としてねーし! 余計なお世話だ」
高尾は怒って元居た場所に戻っていった。これは、別方面からのアプローチが必要みたいだ。
「お前ら、何やってんの?」
「成瀬……」
成瀬は、高尾に虐められていた過去がある。元々は橋本と三人組で幼馴染だと聞いたことがあるが、あまり仲は良くないみたいだ。
「あいつには、関わるだけ無駄だ。あいつのせいで、今でも僕は屋上で弁当食べてるからな」
それは気の毒な話だ。成瀬の方は成瀬の方で、何とかしてやりたいが。悪夢を断ち切れば、関係性も変わるのだろうか。
「つまり、成瀬は屋上帰りってことか」
「何が悪いんだよ。言っておくけど、僕がこうなったのは北斗のせいだからな」
それだけ言い残し、成瀬は教室に戻っていった。彼から話を聞くのは難しそうだ。もう昼休みも終わるので、放課後橋本の方に声をかけてみよう。