目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第85話

 部室には、俺ら以外の全員が揃っていた。

「どうだったの? 進展は?」

 咲夜が問う。俺たちが首を横に振ると、「そっか……」と呟かれた。

 正直八方塞がりだ。幼馴染である二人から大した話が聞けた訳でもないし、本人から聞くのも厳しい。

 そのことを皆に伝えると、暁人から提案があった。

「こちらの事情をある程度隠して、伊達に探って貰えば良いんじゃないか。相性良さそうだし」

 確かにヤンキーもどきと女番長なら、相性も良さそうだ。この時間だと、伊達の方も帰宅しているだろうから連絡だけ暁人に入れて貰う。

 返事はすぐにあった。

『いいぞ。ただ、そいつのこと全然知らないけど』

 クラスが違うのだから、知らないのは当たり前だ。この月見野学園高校は、一学年十五クラスも存在する。

『大丈夫だ、夢野と月影もサポートする。頼んだぞ』

 勝手にサポート要員になっているが、良いだろう。月影もそのことに文句はない様だ。

「じゃあ、明日こそ頼むぞ。夢野、部長」

 期待を裏切る訳にもいかない。明日は今日よりも頑張ろう。


***


帰ろうとしたら、見覚えのある影が見えた。

「悪い、皆先に帰っててくれ。ちょっと用事が出来た」

「わかった」

 皆に背を向け、影の主に近づく。

「何の用なんだ? もういい時間だろ、成瀬」

「北条から聞いたんだ、お前らがここで部活をやっているって。だから待ってた。北斗からの扱いがここ最近あまりにも酷いからな、昴はただの寝不足だと思ってるみたいだけど。それにあいつはオカルトとか信じてないからな。だけど、北斗には何かあるから関係ないお前らが接触してきたんだろ?」

 昴、とは橋本の下の名前だ。それにしても成瀬、中々に鋭い。クラスで上位の成績を収めているからだろうか。それとも直感が冴えているのだろうか。何でもいいが、成瀬は昼間より柔和になっている。これはチャンスだ。

「実は……高尾は毎日酷い悪夢を見ているみたいなんだ。それで、お前にも強くあたってるのかもしれない」

「いや、あいつは昔からああいう性格ではあったけど……。ま、でも僕に苛立つ原因の一端に悪夢があるなら協力しよう。あいつとの付き合いが長い僕に、訊きたいことがあるなら何でも訊いてくれ」

 心強い味方を得た。

「立ち話も何だから、入ってくれ」

 扉を開け、中に入る。五人分の椅子が並んでいる。誰が何処に座るか、はっきり決めたことはないが成瀬は望月の席に座った。俺の対面だ。

「で、何から聞きたい?」

 成瀬の目は、まっすぐ俺を見つめている。言ってしまっては何だが、こんなオカルト話に付き合うタイプなのは少し意外だった。いつも教室に居ないから、素性がわからないというのもあるが。

「高尾って昔からお前のこと虐めてたのか?」

 最初から深掘りしすぎた。最近の俺はコミュニケーション能力が低下しているのだろうか。成瀬は、一拍置いてから

「昔はそんなことはなかった。中学まではあいつも、ダサいヤンキー気取り……要するにイキってただけだからな。高校デビューの時に、僕みたいな地味な奴が傍にいると舐められるとかで、虐められてただけだ」

 高尾、話を聞く限りは中々にクズだな……。あえて言う必要もないのでその言葉は飲み込んだ。

「高尾が好きな女子の話ってわかるか?」

 わからない訳がない質問だが、成瀬は丁寧に答えてくれた。

「月影のことか。夢野はすぐ教室から居なくなるからわからなかったかもしれないが、彼女は北斗のいじめを止めに入った勇者だぞ。高校に入ってから調子に乗っていた北斗からしてみれば、面白い女ってところなんだろうな。僕も随分救われたよ」

 度胸あるんだな、月影……。そこまでだとは思わなかった。というか、成瀬もよく人のことを見てるな。人間観察が趣味のタイプか?

「ありがとう。成瀬のおかげで何か掴めそうだ」

「そうか、それは良かった。じゃあ、僕はこれで」

 成瀬は席を立つと、扉を開けて出ていった。俺も続いて帰路につく。何か掴めそうで、掴めない。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?