目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

第86話

 そのまま、深夜零時になった。悶々としているのは俺一人で、他四人は覚悟が決まっている様だった。

「では、高尾北斗くんの夢に行きましょうか。案内しますね!」

 月影が、夢の中身を見たら何というだろう。自分が居ることに驚くのか?

「副部長、なんだかうかない顔してるわよ。大丈夫?」

「私も気になってた。何て言うのかな……普段に比べて、弱腰な感じがする」

 女性陣からツッコまれ、確かにそうかもしれないと気持ちを入れ替える。高尾が多少クズであろうと、夢の主なのは間違いない。救わなければならないのだ。やがて、目の前に学校が現れた。今日の夢の舞台にはうってつけだ。

「では、私はここでバイタルチェックしていますので。いってらっしゃいませ!」

 そう送りだされ、俺は自分の教室へ向かった。一番高尾が居る可能性が高いからだ。

「ついてきてくれ!」

 そう指示を出すと、皆俺を追ってきてくれる。有難い。教室にはすぐに着いた。こっそり中を覗くと、やはり高尾が居た。それに、月影も。

「あれって部長?」

 普段の声量で問う咲夜に

「シッ! 静かに……」

 と釘を刺す。今はどのシーンなのだろう。耳を傾ける。

「俺、実はお前のことに興味があるっつーか……俺と一緒なら夢野より刺激的な毎日を過ごせると思うけど?」

 高尾の告白シーンだった。こいつ、告白するの下手だな……。

「ごめんなさい、いじめをするような人とはお付き合いできません」

「部長の声だわ」

「本当だ! 好きな子って部長だったんだね」

 女性陣が驚いている間にも、話は進む。

「あ、あれはいじめじゃねーよ! ちょっとイジってるだけ!」

「成瀬くん、凄く嫌そうにしてましたけど……」

「あいつは根暗だからそう見えるだけだって!」

 しばらくの問答の後、「では、そういうことなので」と月影が話を切り上げた。ということは、このままだと鉢合わせてしまう。

「デコレーター!」

 暁人は急遽トイレを作り出し、俺たちはそこに隠れた。月影は違和感を抱かずにそのまま通り過ぎていったので、助かった。今は月影より高尾だ。このままだと自殺の危険性がある。

「おい、高尾」

 教室の扉を開くと、カッターを持った高尾が居た。その刃は、今にも喉に突き刺さりそうだ。非常に危ない、何とかしなくては――そう思った時には咲夜が水鉄砲にコルク玉を詰めたもので、高尾の手を撃った。当たり所が良かったのか、カッターはポロリと高尾の手から落ちた。その隙に俺は高尾に駆け寄り、一発顔を殴る。何がどうなってるのかわからない、といった様子の高尾にありったけの感情を乗せ語りかける。

「お前一人だけ楽になろうとしてんじゃねぇ!! お前のせいで苦しんでるやつだっているんだぞ!!」

 少なくとも、成瀬は。

「大体、高校デビューとかだせぇんだよ! そんなくだらないことのために、青春潰されてるやつの気持ちもわかってくれよ!」

 成瀬は、こいつのせいで。

「なあ、高尾――」

「夢野、ストップ。何があったか知らないが、お前らしくもない。もっと冷静に対処しろ」

 暁人に身体を抑えられ、何も出来なくなる。元運動部なだけあって、意外とがっちりとした体つきだ。抜け出すのは容易ではない。他のメンバーも俺のことを心配そうに見つめている。一気に、頭から血が引いていく。

「ごめんな、高尾。でも、覚えておいて欲しかったんだ。お前の行いのせいで苦労してるやつが居るってこと」

 高尾は、何も話さなかった。これ以上、何かをするとも思えないのでいつもの様に悪夢を食らう。

「喰らうぞ、この悪夢」



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?