視界が現実世界のものになると、一気に脱力感に襲われた。成瀬とは少し話をしただけなのに、何故あんなに肩入れしてしまったのだろう。確かに高尾が悪いのだが。自分で自分の感情がわからない。また、おじさんに鍛えて貰うか。
「今日の獏、なんだかおかしかった。大丈夫?」
咲夜はまだ心配そうに俺のことを見つめている。他のメンバーも同様に。月影だけが、「何かあったんですか?」ときょとんとしている。
「ああ、ちょっと夢野が暴走して……」
暁人は事のあらましを説明した。
「え! 夢野くん、どうしちゃったんですか!? 普段はあんなに冷静じゃないですか」
「俺にもわからない、高尾とは相性が悪かったのかもしれないな……」
人を殴ったのは、梓希先輩以来だ。嫌な経験が積み重なっていく。
「まぁ、何はともあれ解決したわけですし今日はもう休みましょう~! また朝に!」
いつもの様に解散になった。今日の咲夜は無言で、何とも心地の悪い帰り道だった。
***
翌日、教室に入るといつもの様に高尾が幅を利かせていた。やはり夢は夢、あまり高尾には響かなかったのだろう。そういうこともある。残念な気持ちはあるが、仕方ない。
「夢野、北斗がどうかしたのか?」
「いや、どうも……」
その言葉を発したタイミングで、月影が教室に入ってきた。すると今まで談笑していた北斗は立ち上がり、月影の方に寄っていく。
「おはようございます、どうしたんですか?」
「月影。俺、間違ってたかもしれねえ。いつか絶対お前を振り向かせてみせるからな!」
成瀬が聞いたら、どう思うだろうか。案外笑ったりして。
「うふふ、楽しみにしていますね」
月影は含み笑いをし、自分の席に着いた。高尾は高尾なりに改心したらしい。今回の件は一応、一件落着と言えそうだ。