いつもの部室。誰かが言った。
「大掃除をしよう」
気がつけば、もう十二月。大掃除をする季節だ。この部室は物が溢れているとまではいかないが、用途不明な物品がいくつかあるのは確かに問題だ。
「では、今日は大掃除をしましょうか~!」
月影の一言で、部活の内容が決定した。早速、部室内の物を一箇所にかき集め、取捨選択を行うことにする。
「これは……」
「私が前に使った水鉄砲だ! 無いと思ったら……」
「んじゃ、これは……」
「私が演劇部に居た頃の台本ね。こんなところにあるなんて」
先が長くなりそうだ。俺は部室に何も置いていないので、皆そうだと思っていたがそうでもないらしい。
「あの、これ夜見くんのお菓子箱じゃないですか?」
「そうだが……沢山入っているから、中は開けないでくれ。バランスが崩れると立て直しに時間がかかるんだ」
どれだけ入ってるんだ……という気持ちは一度置いておいて、作業を進める。思い出の品々が、机に積みあがっていく。床が全て見える様になる頃には、机の上から品が落ちそうなほどになっていた。
「これは……凄いですね」
俺と同じく、部室に物を置かないタイプらしい月影が呟く。確かに、凄いとしか言いようがない。積みあがった品々は、今にも崩れ落ちそうだ。
「まずは、どれが誰のものなのか整理しましょう!」
三人は物品に近寄ると、「あ、これ私のだわ」「これはあの時の……」「菓子のストックだな……」と口々に言いあいながら手を動かす。暁人と望月は良いのだが、問題は咲夜だ。一つの物で、思い出を回想していてはいつまで経っても終わらない。
「咲夜、思い出に浸るのも良いけどここにある物の半分くらいはお前のだろ? もう少しペースあげないと」
「わかってるよ、でも中々なぁ……」
咲夜が片付けが苦手だということは把握していたが、年々悪化している様だ。このままでは埒が明かないので、一度持ち帰って咲夜の家でやって貰うことにした。
「とりあえず? 部室が片付きましたね! 星川さん、お家で絶対片づけてくださいね~!」
「はーい」
「じゃあ、今日は解散で。また明日お会いましょう!」
解散となった。咲夜の大量の荷物を、何気なく持つと「ありがとう」と笑顔で言われた。
「今日、お母さん居るんだけど寄ってく? たまには夕飯一緒に食べようよ」
「良いけど……迷惑にならないか?」
「大丈夫、お母さん獏なら歓迎って言ってたから」
確かに咲夜の家とは家ぐるみの付き合いだから、夕飯を食べても問題はないのだろう。たまには言葉に甘えてみよう。最近、家にいる間少し息苦しいし。
「折角だし、行くか」
「ほんと!? お母さんに連絡しとくね!」
咲夜はスマホでメッセージを打ち始めた。俺も、『今日は咲夜のとこで飯食って帰る』と一報入れておく。これで気兼ねなく咲夜の家に遊びに行ける。それにしても、いつぶりだろうか。咲夜の家なんて。急にドキドキしてきた。心の準備が出来ないうちに、家に着いてしまった。
「ただいまー」
「おかえりー、獏くんもゆっくりしていって」
咲夜のお母さんの声が、廊下の奥から聞こえた。恐らく、夕飯を作っている最中なのだろう。この匂いは、カレーだろうか。期待に胸を膨らませていると、「こっちだよ」と咲夜に誘われる。二階にある咲夜の部屋は、当然なのだが彼女の匂いでいっぱいだった。残念なのは、これも想像はついていたが床に物が散乱している点だ。これでは、部室の片づけにも時間がかかる訳だ。
「……なあ、この部屋片づけないか?」
「うん……」
咲夜もわかってはいるのだろう。このままではいけない、と。床に散乱しているのは、ざっと見たところ教科書に服。教科書は捨てられないから、やるのは服だけに留めておこう。と言っても、この服の大半は恐らくだが咲夜が作ったものだろう。だから余計に愛着が湧いて捨てられない。負のループだ。
「服なんだけど、これって咲夜が作ったものだろ? フリマアプリとかに出品してみるのはどうだ?」
「でも、失敗作ばっかりだし……売れるのかな」
咲夜には、自信が欠けている。
「とりあえず、皴をのばしてやるだけやってみよう」
咲夜の部屋にあるアイロンを起動させ、丁寧に皴をのばしていく。何処が失敗なのかわからないほど、出来の良い服のオンパレードだ。これなら売れるだろう。
次は、部室にあった咲夜の荷物だ。こっちは、大半がガラクタなのでアプリでも売れないだろう。
「これは……持って帰ってきたのは良いけど、捨てた方が良いんじゃないか?」
「そうだね……名残惜しいけど」
袋に再び封をすると、見計らったかの様なタイミングで「咲夜、獏くん、ご飯出来たよー」と咲夜のお母さんから声がかかった。階段を降りていくと、スパイシーな香りがしてきた。やっぱりカレーだ。大人数ならその方が効率良いもんな、などと考えながらリビングに入った。
「獏くんは咲夜の隣に座って! 沢山食べてね、成長期なんだから」
指定された席に座ると、すぐにカレーが運ばれてきた。しかし、中々に量が多い。食べきれるだろうか……。これが夢とか、そういうオチではなさそうだ。食うしかない。
「いただきます」