何とか食いきれたが、しばらく身動きはとりたくない。それくらい食べた。
「やっぱり獏くん、成長期だね。あんなに盛ったのに食べきっちゃうなんて!」
咲夜のお母さんは感激していたが、俺はそれどころではなかった。見かねた咲夜が、「私の部屋で休む?」と提案してくれた。こんな有難い誘いはない。頷くと、「獏、休んでから帰るって!」と咲夜は俺を部屋に連れて行ってくれた。
咲夜の部屋は相変わらず雑然としていたが、ベッドは無事だ。俺はそこに横になると、また緊張してきた。俺が万全の状態であれば、もっと関係性が進展したかもしれないのに。もしものことを考えても、仕方がないのはわかっているが。
「獏、お母さんがごめんね。つい張りきっちゃったみたいで……」
「大丈夫だ。お前も今度、俺んちに飯食いに来いよ。今日みたいになるかもしれないけど」
咲夜は、目を輝かせて「行く! 約束だよ」と言った。俺も「おう」と返すと、「じゃあ、そろそろ帰るよ。世話になったな」と部屋を出た。
「おばさん、ありがとうございました。咲夜も、また明日な!」
咲夜の家を出ると、辺りはもう真っ暗だった。街灯だけが、闇を照らしている。家に帰ると、「咲夜ちゃんの所で夕飯食べてくるって……いつも急なんだから」と小言を言われたが、それはスルーした。
寝る前、咲夜の部屋をふ、と思い出した。雑然としながらも、彼女の匂いで充満していた部屋。また行きたい、そんな自分に驚きながら意識を手放した。