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第92話

 夕飯を食べ終え、歯を磨く。そのまま再びベッドで横になると、睡魔は自然とやって来た。


 これを夢だと認識できている時点で、俺はある程度自由に動ける。後は仲間が来るのを待つだけだ。俺の見た目は幸いそこまで変わっていないので、気がついてくれるだろう。

「ねえ、お母さんは――」

 昨日の会話が繰り返されている。まるでループ再生の様だ。早く皆が来ないと、また恥ずかしいことを言わなければいけなくなる。本当に頼む、早く――そう願っていたら、こちらに駆け寄ってくる人たちが見えた。

「間に合ったみたいね」

 息を荒げながら、望月が言う。咲夜の存在を視認したのか、「……星川さん?」と問いかける望月。

「今は夢野だけどね。それにしても、高校生の時のネルミが見られるなんて思わなかったな」

 夢の中の咲夜はそう言って、はにかんだ。平和的な空間だが、これからのことを考えると憂鬱になる。

「望月、これからのこと忘れるなよ」

「わかってるわよ、夜見くん。でもそれには今の星川さんの力が必要だから……」

 現実世界と同年齢の咲夜は、テンパっている様に見える。未来の自分とこんな形でご対面したらそうなるか。

「私、頑張るよ。獏との幸せのためにも! もちろん、あいつらの好き勝手にさせないためにも」

 現咲夜が持っているのは、ゴルフクラブが巨大化したものだった。恐らくは、トラックを打ち返すとか、そんなところだろう。夢咲夜はこれから轢かれることを知らないので、きょとんとしている。

 子どもはといえば、望月に見惚れていた。こいつ、黙ってたらまあまあ可愛いな。男だけど。いや、最近はそういうことを言ってはいけないのか。そうこうしている間にも、暴走トラックはやって来た。運転手の顔を見ると、青ざめている。ブレーキが効かないのだろうか。

「来たね。まずは……」

「デコレーター!」

 暁人が地面を隆起させ、トラックの衝撃を弱める。そこに現咲夜が、ゴルフクラブでトラックを打った。ナイスショットだが、夢の中の咲夜は怪力だということが証明された。あんまり怒らせないようにしよう。現実世界ではそんなことはないのだが……夢補正だろうか。ともかく。

「よし、食らうぞ。この悪夢――」

 咲夜に夢で会えなくなるが、現実でも会えるからと心を切り替える。そして、暗転する視界。成功したみたいだ。


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