冬休み一日目、非常によく寝た。普段からの疲れが影響しているのか、十時間睡眠なんて小学生の頃以来だろう。リビングに行くと、母親に呼び止められた。
「獏、そろそろ教えて欲しいんだけど……深夜にコソコソ家出て行って何をしているの?」
ついにこの追及タイムが来たか。だが、俺だって無策ではない。
「浩一郎おじさんのところで、部活のメンバーと勉強会してるんだよ。最近夜型だからさ」
「部活入ってたの? でも、夜中はやめた方が良いわよ。補導されたら面倒くさいから」
もっともな意見だ。補導警官なんて、この辺りでは見たことがないが。
「わかってるっつーの、だから近場のおじさんのカフェのスペース貸して貰ってるんだろうが」
これで押し切るしかない。何故なら、カードがこれしかないから。
「あんまり自分の息子に口出しするのも良くないとは思うのよ。でもあんたは一人息子だから、心配になる気持ちもわかってよね」
納得はせずとも、こちらの事情も汲み取ってくれた様だ。これで少しは活動しやすくなるだろうか。
「とりあえず、今日は出かけるから」
「遅くならないようにするのよ」
母親を無視して、靴を履く。そしてそのまま、「いってきます」と挨拶をして扉を閉めた。
咲夜の家に行って、彼女の部屋の大掃除を手伝わなければいけない。歩いて数分で着くので、チャイムを押し咲夜を待つ。少しすると、咲夜が扉を開けてくれた。
「ごめんね獏、折角休みなのに」
「お邪魔します、良いんだよ。昔からずっとしてることだし」
咲夜の部屋が荒れているのは、いつものことだ。早速二階にあがると、ドアが開け放たれていた。
「あ、ごめん。さっき獏が来た時開けっ放しにしてたんだよね」
しかし、部屋は前回ほど汚くはなかった。見覚えのない服は新しく縫ったのだろうか。それにしても、物の数が減っている。
「なんか……前回より物が減ってないか?」
「フリマアプリで売れたんだ、評価も結構良いんだよ」
ちゃんと活用できている様で、一安心だ。
「この調子でいけば、服は全部捌けるかもな」
「そうだね。私の分身みたいに思っているところあるから、寂しいけど」
暁人にもそういったところはあるが、モノを作る人間ってそういう人が多いのだろうか。
「そんなもんか」
「獏も服作ってみたら絶対わかるよ」
咲夜はそう言い、クローゼットを開けた。そこにはまだ売れていない品々が並んでおり、これを今日は掃除しに来たという訳だ。
「じゃあ、獏。今日は……よろしくね」
「お手柔らかに。さっさと終わらせて、みなとみらいにでも行こうぜ」
俺は、荷物を一つ一つおろしていく。一つ一つが非常に重く苦労したが、幸い箱数が少なかったので体力の消耗を抑えられた。
次に、箱を開けて状態をチェックする。破れたりしているものはなさそうだ。そして、この服を咲夜に要るかどうか訊いていく。それを数時間繰り返すと、大掃除は終わった。
「……何か食いに行くか」
思えば、昼飯も抜きにして作業していた。疲労感と空腹が同時に襲ってくる。
「そうだね、獏の好きなものにしよっか」
「じゃあ、ラーメンかな」
俺たちは、駅前のラーメン屋へと歩き出した。