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第二十章 学園のアイドル編

第101話

 米津の件から、一週間が経った。冬眠という言葉があるように、俺たちは毎日退治業に追われている。その中で、気がついたことがある。

 それは、トワイライト・ゾーンの連中は基本的に「学園で目立つ人」を標的にしている確率が高いということだ。例えば、天才指揮者の佐久間梓希。サッカー部の絶対的エースである佐久間奈切。女番長の伊達美杜、スーパーアルバイターの如月真莉。あげればキリがないほどに有名人が多い。ということは、次が誰なのかを予測することも不可能ではないのかもしれない。いくらこの学園が大きいとはいえど、有名人となれば数は限られてくる。もうそこまで沢山の人数はいないはずだ。トワイライト・ゾーンとの直接対決の日も、案外近いかもしれない。

「夢野くん、聞いてました~? 今日の夢の主さんのお話」

「あ、悪い。考え事してた……」

「仕方ないですね、もう一度説明するので今度は聞いてください。今日の夢の主は、学園一のアイドルと評される長戸路まなさんです! 彼女には付き合っている人がいるらしいのですが、ある日突然振られて落ち込む……という内容だそうです」

 この月見野学園に美人は数多かれど、学園一となればやはり長戸路に勝る存在はいないだろう。彼女は性格も天然で、守ってあげたいと評判である。男女問わずウケがいい彼女にも、確かに彼氏はいたがあまり興味がなかったので顔も名前も覚えていない。それにしても本物のアイドルって、恋愛沙汰で評価落ちたりしないんだな、と感心する。しかし、夢の内容が自殺でないのはレアだ。意外とメンタルが強いのだろうか。

「じゃあ、誰が長戸路さんに接触する?」

 咲夜の言葉は、その場を沈黙で支配するのには十分だった。いくら有名人と接触してきたとはいえ、長戸路は過激なファンが居そうで怖いのだ。男女問わず。

「私がいきましょうか……?」

 月影がおずおずと手を挙げる。ここは悪いが、月影を頼ろう。そうしよう。

「頼めるか?」

「……ベストは尽くします」

 重荷を背負わせて悪い気持ちはあるが、同時に俺がやらなくて済んだという安堵もある。俺ってこんな嫌な人間だったのか。


***


 翌日、月影は長戸路に接触しにいった。昼休みに、「いってきます!」とどこか吹っ切れたように彼女は教室を飛び出した。

「漠、今日は月影ちゃんと一緒じゃねーんだな」

「うるせーな、いつも一緒な訳ないだろ」

 クラスメイトの軽口に付き合う程度には、余裕が持てている。

「いや、もう高尾の前じゃ言えねーけどお前月影ちゃんと付き合ってる? ってくらい一緒にいるからな」

「そうか?」

 全く自覚がなかった。確かに同じクラスで同じ部活だから一緒に行動することは多いかもしれないが、それだけだ。特別な感情はお互いにない。

「そうそう! お前、今度月影ちゃんと一緒に行動する機会あったら高尾の方見てみろ。凄い顔してるから」

「見たくねえなあ……」

 そう言い残し教室のドアを開ける。廊下には談笑している生徒があちらこちらにいて、昼の賑やかさを際立たせている。部室へと急ぐため廊下を走っていると、風紀委員に捕まった。

「廊下は走らないこと! ……って漠! 珍しいね、こんなところで会うなんて」

「咲夜こそ……ここ部室棟と教室棟の間だぞ。何でこんなところにいるんだよ」

「実は……月影さんが大丈夫か不安で……見にいこうとしてたの」

 咲夜が心配する気持ちもわかる。月影は背が低いから、話しかけるのが大変かもしれないからだ。ファンに囲まれていたら、間違いなく埋もれる。月影じゃなくて俺がやれば良かったか……? と思ったが時既に遅し。

「ってことはもしかして、部室には望月と暁人だけなのか?」

「うん。二人とも月影さんのことは気にしてて、私が見に行くことになったの」

「じゃあ、俺も一緒に行くよ。月影のことは俺も気になってたところだし」

 俺たちは、長戸路のクラスまで歩き始めた。


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