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第129話

 放課後、綾瀬の情報を改めて照合する。

「要は、綾瀬の兄貴に殺意を湧かせなければいいんだろ?」

「そうね。でも、引きこもりなんじゃ、変身することは不可能よ。写真の一枚と性格の情報があれば話は別だけれど」

 今回は望月の手を借りられなさそうだ。となると、暁人、咲夜をメインに据えて最後に俺が夢を食うのが早そうだ。

「しかし、今回の夢で僕の出番があるとは思えないな。星川の人柄が一番役に立つんじゃないか?」

「えっ⁉ そうかな……?」

 暁人の言うことには概ね賛同だ。頷き、「俺もそう思う」と口を挟む。

「綾瀬は咲夜と俺しか交流がない。その中だったらクラスメイトの咲夜の方がまだ心を許してるだろ」

「そんな単純なのかな……?」

咲夜を中心に案を練る。今夜は万全の状態で夢に臨めそうだ。


 深夜零時、ネットカフェの奥に俺たちは居た。いつも通り目を瞑り、月影の先導を待つ。そして辿りついたのは、『綾瀬』と表札が掲げられている一軒家だった。

「咲夜、頼んだぞ」

「緊張してきた……」

「大丈夫だ星川、仲間がいる」

「そうだね……!」

 咲夜は扉をそっと開いた。一般的な家庭より、かなり雑然とした玄関。それが奥の居住スペースにも続いている様だ。やはり、綾瀬家は複雑そうだ。

「お前が居なければ、俺の人生もっと幸福だったんだよ!!」

二階から怒鳴り声が聞こえた。綾瀬の声と似てるけど、少し違う。兄の声だろうか。

「知らねえよ! 生まれたもんは仕方ねーだろ!」

 これは間違いなく綾瀬の声だ。咲夜はかろうじて足の踏み場を見出し、一歩一歩慎重に階段をのぼっていく。

「綾瀬くん?」

「星川⁉ 何でここに……」

「おい、誰だこの子。こんな可愛い子と付き合ってたのか?」

 綾瀬兄の視線が咲夜に向いた。

「ちげーよ! ただのクラスメイト!」

「そうです!」

 今だよ、と咲夜のアイコンタクトがあった。

「喰らうぞ、この悪夢——」


***


目が覚めると、もう一時を回っていた。

「最近、獏の目覚めが遅い気がするんだけど……気のせい?」

「気のせいだろ。ほら、この通り俺は元気だし」

 起き上がると、おじさんと目が合った。普段ならそんなことはないのに、今日は目を逸らされた。何かあるのだろうか。

「とりあえず、今日は解散にするか。無事に悪夢退治出来たわけだし」

「そうね」

 俺たちはネットカフェから出て、それぞれの家の方角へ歩き出した。


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