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第130話

 放課後、部室に行くと机にチョコの山が出来ていた。

「何だ、これ……?」

 あまりの量の多さに絶句していると、望月が口を開いた。

「全部私宛のものなのだけれど、食べきれる気がしないから皆でシェアしようと思ったの。副部長も食べて頂戴」

「そうか。じゃあ、遠慮なく」

 適当にチョコを引き抜くと、メッセージカードがはらりと床に落ちた。望月はすかさずそれを拾い上げると、柔らかい表情を浮かべた。

「副部長、それは私が食べるわ。米津くんからなの。そのチョコ」

「米津が? 友チョコか何かか?」

「意図はわからないけれど……。『望月さんにしか、僕はチョコ渡してないよ』と言われたら、食べた方が良いのよねと思って」

 米津は本人が気づいているのかはわからないが、彼は望月に恋をしているみたいだ。望月の方は確実に気がついていない。不憫な米津。

 米津からの物でないチョコレートを数個、鞄に詰める。この山の量でも、暁人は満足できるのだろうか。暁人の限界を見てみたい気持ちもあるが、身体に悪そうだ。

「……そういえば、暁人は?」

「今日はまだ来ていないわよ。お昼にも来なかったわね」

 根っから真面目な暁人のことだ、ホワイトデーのイベント一つで休む様には思えない。何かあったのだろうか。

「夜見くんなら『すまないが遅れる』って今メッセージが入ったよ」

 咲夜の一言を受け、スマホを確認すると確かにその文字列が並んでいた。

「夜見くんが遅れるなんて珍しいですね~」

「俺、様子見てくるよ。多分教室に居るだろうから」

 そう言い残し、部室を後にした。


***


 暁人の教室に行くと、やはり彼は居た。ただ、伊達もセットだ。少し聞き耳を立ててみることにした。

「だから、アタシの兄貴……今大学生で一人暮らししてんだけど。が、最近夢見が悪いみたいで……お前らなら何とか出来ると思ったから話してみたんだけど……。何とか出来そうか?」

「何とかできない。すまないが、他をあたってくれ」

「くそっ……じゃあいいよ、夢野にでも話してみるから」

「夢野でも対応はしてくれないと思うぞ」

「うるせえよ!」

 今ここで伊達に見つかったら、面倒なことになりそうだ。近くにある男子トイレに身を潜め、伊達が教室からバタバタと出て行く音を聞き、そっとトイレから出ると暁人に遭遇した。

「夢野、こんなところで何してたんだ?」

「ああ、いや、実はな……」

 俺は、伊達と暁人の会話を聞いてしまったことを話した。

「ああ、伊達なら放っておいて大丈夫だ。見つかりさえしなければな」

「でも、気にならないか? 奴らが学園の外の人間に手を出さないとも限らないし……」

「だとしても、まずは部長の指示を待った方がいいだろう。勝手に僕だけで乗り込むことは出来ないからな」

 確かに、月影の力がないと他人の夢に干渉するのは非常に難しい。彼女の力は俺たちにとっての命綱だ。望月や咲夜だって、当然必要な戦力だし。いくら暁人の能力が強力でも、悪夢退治はチームプレイだ。一人でも欠けたら、完遂できなくなる可能性が高くなる。

「とりあえず、部室行こうぜ」

「そうだな」

 俺たちは部室へと向かった。


 部室には、伊達が居た。俺をすっ飛ばして女子たちに詰め寄る伊達。

「何の用なんだよ、伊達」

 先ほどの会話は聞いてなかったことにして、問いかける。

「夢野! 実はな……」

 そして伊達の悩み事を再度聞き、「悪いけど……」と断ろうとしたその時だった。

「伊達さんのお兄さんって、もしかして伊達政臣さんですか?」

 月影が割って入ってきた。目を見開く伊達。

「どうして知ってるんだ⁉ アタシ話したか?」

「ああいえ、ちょっとしたツテで……」

 恐らく、氷川さんが送ってくれる夢の主がその名前なのだろう。

「まあ、兄貴もこの学校出身だから知ってる奴がいてもおかしくないな。で、何とかしてくれえるのか?」

「はい! 全身全霊をかけて救います!」

「頼んだぞ。じゃあな!」

 台風の様な勢いで、伊達は部室から出て行った。

「……で、何者なんだよ伊達政臣って」

「伊達さんのお兄さんで、去年この学校を卒業して現在は東仙大学の一年生みたいです」

 東仙大学。国立大学の中でも、かなり頭が良い部類だ。俺の頭では入れないだろう。やはり、伊達の家系は頭が良い人が多いのだろうか。以前暁人が「伊達の頭の良さはクラス内なら五本の指に入る」と言っていたし。

「……で、どんな夢なんだ? それがわからなければ救えないだろう」

「ええとですね……伊達さんが交通事故で亡くなる夢ですね。わかりづらいので、今は美杜さんとお呼びしましょうか。自分のアパートに来る美杜さんが、最後の信号を渡るときに暴走した車両に撥ねられる……という内容です」

 確かに、そんな夢毎日見ていたら夢見が悪いと愚痴りたくなるだろう。それが、悪夢を構成している要因である妹であっても。

「なるほど、美杜を事故から助け出せば良いんだな」

「でも、どうやって……? 暴走車両に武器や変身が通用するとは思えないんだけど……」

 咲夜が弱々しくそう呟く。

「僕の能力がある。伊達妹が渡るときに、巨大な壁を横断歩道に設置する。これでどうだろうか」

 その呼び方はアリか? と疑問に思ったが今は作戦内容の方が大事だ。確かに暁人の能力ならそれが可能だ。今回は作戦の中心に暁人を据えよう。

「良いと思います! では、また深夜に!」

こうしてこの場は一度解散になった。


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