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第132話

 思えば、俺は月影まくらという人間をよく知らない。夢の中で共闘している訳でもないし、彼女自身が俺たちから一線を引いているというのもあるだろう。敬語を使っているのが良い証拠だ。同じクラスだというのに、知らない。知りたいと思うようになったのは、あの施設からの帰り道でだ。

「月影、お前は何者なんだ?」

 彼女は、質問の意図がわからなかったのか

「どういうことですか?」

 と返してきた。

「いや、今思えば俺お前のこと全然知らないなって。もうすぐ春休みでクラス替えがあるだろ。その前にお前のこと、もっと知りたいんだよ」

 月影は、「楽しいお話は出来ませんが」と前置きしたうえで、自分について語り出した。

「私の両親は、共働きで私はいつも一人でした。両親の役に立ちたい、最初の願いはそうだった気がします。役に立てば構って貰えると、幼い私は考えたのです。でも、それは間違いでした。両親の手が空けばまた新しい仕事が舞い込み、もっと疲弊するだけ。いつからか、私は両親を恋しいと思わなくなりました」

 彼女はここで一度言葉を切った。

「そんな中、私は夢を見ることが増えていきました。現実逃避なのかはわかりませんが、夢の中で自由に動ける時間だけは何もかもから解放された気がしたんです。私の願いも、段々変わってきました。両親だけじゃなく、誰かの役に立ちたい。心からそう願った時、私は夢を制御できる『ドクター』という能力を手に入れることが出来たのです」

 能力の発現は人によって様々だ。暁人や望月、咲夜も能力を持っているが、どう発現したのかは知らない。あんなに親しい咲夜でさえも。聞けば教えてくれるのだろうが、わざわざ聞くほどの話でもないかと思い放置している話題だ。

「『ドクター』の能力は強力で、最初どう扱っていいのか全く分かりませんでした。それこそ夢野くん、あなたが現れるまでは。最初の頃は、同じクラスメイトだということも気がつかずすみませんでした。他にも望月さんや星川さんも居ましたよね。夜見くんはもっと後になっての加入でしたっけ。もう随分長いこと、悪夢退治をしている気がします……」

 ペットボトルのお茶を飲み干し、彼女は更に言葉を連ねる。

「私は、悪夢退治が終わっても皆さんと仲良くしたいと思っています。夢野くんはどうですか?」

 どうやら自分の話はこれで終わりらしい。

「俺も仲良くしたい、とは思ってる。そもそも咲夜とは幼馴染だしな。だけどそれに全員が賛成するかは……わからない」

 暁人や望月は、咲夜と違って高校からの友人だ。行動が全く読めないとは言わないが、かといって読める訳でもない。今後も五人一緒である保証など、何処にもないのだ。

「そうですね……。では、そろそろ部室に行きましょうか。誰も居ない教室も悪くはないですが、今日も夢の主さんが待ってます」

「そうだな」

 俺たちは椅子から立ち上がり、教室を出た。道中は無言だった。


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