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第134話

 翌日。月影と俺は、軽音楽部の部室で先輩と三人で昼食をとっていた。

「お前ら、付き合ってるのか?」

 先輩も先輩で遠慮がない。でも、男女ペアで部室を訪れていたら普通はそう思うか。

「いえ、全く! 夢野くんはクラスメイトです」

「そうなのか」

 俺の趣味がロリコンになるところだった。危ない……。ただでさえクラスメイトにはからかわれているのに。

「そうです、同じ部活のクラスメイトです」

 便乗して、クラスメイトという点を強調しておく。

「何の部活をやってるんだ?」

「ミステリ研究会です~!」

「オカルトとかやってんのか? 興味あるな」

 食いついた。もう少し押せば、悪夢のことも教えてくれそうだ。

「オカルトとミステリは紙一重ですから。何か変わったことがあったんですか?」

 先輩は口に手をあて、少し悩んでいる様な素振りを見せた。

「そうだな……。夢を見るんだ。親にギター壊される夢。このギターは俺が高校に受かった時に貯金をはたいて買った相棒なんだ。それを壊される夢……。夢で良かったと毎日思う。お前らに話しても仕方ないことではあるんだけど、毎日見てると心も擦り減る……」

 なるほど。これが悪夢の全容か。思ったよりあっさり聞き出せた。人が良いのか、実はそれくらい切羽詰まった心理状態なのかもしれない。

「大変ですね」

 今夜でその悪夢を断ち切ろう。そう心に決める。

「悪いな、暗い話して。ロックに興味はないか? 特に月影。お前は逸材だと思う」

「私は楽器の演奏は出来ないので……」

「練習すれば大丈夫だ!」

 昼食を終えていた月影の手を先輩は握った。高尾が見たら卒倒しただろう。この場に居なくて良かった……。

「……ロックに興味はないです」

「そうか……。無理強いは良くないからな、俺も諦めるよ。メンバーは揃ってるしな」

 なら何で誘ったんだ? という疑問が残った。


 放課後。悪夢のことを話すと、全員黙り込んでしまった。

「四人でギターを守り抜くしかないわね」

 沈黙を破ったのは望月だった。確かに、それしかないのだ。

「そうだな。屋内だとデコレーターを使いづらいのが難点だが」

 下手に家の構造を変えてしまうと、収拾がつかなくなりそうだ。俺は頷く。

「じゃあ、武器で妨害する……? でも、どうやって……」

 咲夜は独り言を呟いている。今回のメインは咲夜になるのだろうが、心の何処かに迷いがある様にも見える。

「咲夜、この場合の先輩の親は敵なんだ。何してくれても構わない」

「まあ、説得できるのが一番良いんですけどね~。難しそうですが……」

 月影の言う通りだ。夢の中とはいえ、怪我人を出してしまうのは良心が痛む。

「……わかった。やるだけやってみる」

 咲夜の決意の言葉が聞けたところで、一度解散になった。


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