翌日。月影と俺は、軽音楽部の部室で先輩と三人で昼食をとっていた。
「お前ら、付き合ってるのか?」
先輩も先輩で遠慮がない。でも、男女ペアで部室を訪れていたら普通はそう思うか。
「いえ、全く! 夢野くんはクラスメイトです」
「そうなのか」
俺の趣味がロリコンになるところだった。危ない……。ただでさえクラスメイトにはからかわれているのに。
「そうです、同じ部活のクラスメイトです」
便乗して、クラスメイトという点を強調しておく。
「何の部活をやってるんだ?」
「ミステリ研究会です~!」
「オカルトとかやってんのか? 興味あるな」
食いついた。もう少し押せば、悪夢のことも教えてくれそうだ。
「オカルトとミステリは紙一重ですから。何か変わったことがあったんですか?」
先輩は口に手をあて、少し悩んでいる様な素振りを見せた。
「そうだな……。夢を見るんだ。親にギター壊される夢。このギターは俺が高校に受かった時に貯金をはたいて買った相棒なんだ。それを壊される夢……。夢で良かったと毎日思う。お前らに話しても仕方ないことではあるんだけど、毎日見てると心も擦り減る……」
なるほど。これが悪夢の全容か。思ったよりあっさり聞き出せた。人が良いのか、実はそれくらい切羽詰まった心理状態なのかもしれない。
「大変ですね」
今夜でその悪夢を断ち切ろう。そう心に決める。
「悪いな、暗い話して。ロックに興味はないか? 特に月影。お前は逸材だと思う」
「私は楽器の演奏は出来ないので……」
「練習すれば大丈夫だ!」
昼食を終えていた月影の手を先輩は握った。高尾が見たら卒倒しただろう。この場に居なくて良かった……。
「……ロックに興味はないです」
「そうか……。無理強いは良くないからな、俺も諦めるよ。メンバーは揃ってるしな」
なら何で誘ったんだ? という疑問が残った。
放課後。悪夢のことを話すと、全員黙り込んでしまった。
「四人でギターを守り抜くしかないわね」
沈黙を破ったのは望月だった。確かに、それしかないのだ。
「そうだな。屋内だとデコレーターを使いづらいのが難点だが」
下手に家の構造を変えてしまうと、収拾がつかなくなりそうだ。俺は頷く。
「じゃあ、武器で妨害する……? でも、どうやって……」
咲夜は独り言を呟いている。今回のメインは咲夜になるのだろうが、心の何処かに迷いがある様にも見える。
「咲夜、この場合の先輩の親は敵なんだ。何してくれても構わない」
「まあ、説得できるのが一番良いんですけどね~。難しそうですが……」
月影の言う通りだ。夢の中とはいえ、怪我人を出してしまうのは良心が痛む。
「……わかった。やるだけやってみる」
咲夜の決意の言葉が聞けたところで、一度解散になった。