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第138話

 翌日の昼休み。咲夜と暁人以外のメンツで昼食をとる。女子だらけで、正直居づらい。二人ともそんなことは気にしていないみたいだが。

「伊東先生について、収穫があるといいですね~」

「そうね。今回は今までと違うから、入念に調べてもらいましょう」

 二人は話し込んでいて、俺が割り込む隙がないことに、疎外感を覚える。あまり食事の味がしないのも、きっとそのせいだ。

 咲夜が突飛な行動に出ることがあるのはわかっているが、落合の件では暁人もそうだった。今更ながら、任せて大丈夫だったのか不安になってくる。しかしもう、どうこう言っても仕方がない。二人を信じるしかない。放課後まで、気が気でない時間は続きそうだ。


 今日一番早く部室に着いたのは、俺だった。月影がトイレに行くと告げ、バラバラに行動することになったからだ。鞄を置き、定位置に座る。その直後に

「あれ? 今日は獏が一番乗り? 早いね!」

 咲夜が部室に入ってきた。暁人は一緒に居ないみたいだ。

「何もすることなかったからな」

「そっか。まあ、私も似た様な感じ。夜見くんから先に部室に行っててほしいって言われちゃったから……」

 つまるところ、今暁人にはストッパーがついていない。常識はあるはずだから極端な行動には出ないと思うが、少し心配だ。

「暁人は何を考えてるんだろうな」

「わからない……。けど、きっと悪い方向には進まないはずだよ」

 そう願いたい。落合の時みたいに、上手くいくことだけを考えよう。そんなことを考えていると、月影と望月が部室に入ってきた。

「あら、二人とも早いわね。夜見くんはどうしたの?」

「先に部室に行けって言われちゃって……」

 咲夜は先ほどと同じ説明を望月と月影にした。

「なるほど……。夜見くんは、一人で何か企んでいそうですね」

「そうだな。悪い方向にいかないといいんだが……」

 沈黙。全員、暁人の考えを読めなかったからだ。今回の相手は先生なのだから、風紀委員である咲夜を連れて行った方が良いのではないだろうか。

「すまない、遅れた」

 部室の扉が開いた。暁人は酷く疲れた顔をしている。彼はそのまま自分の椅子に座ると、話しだした。

「伊東先生の従兄弟の話を振ってみた。何で知っているのか尋ねられたから、そこは噂で聞いたと誤魔化してみたぞ。どうやら、昔から従兄弟との仲は良くなかったらしい。伊東先生は自分が従兄弟より優秀だという自負があり、それは事実みたいだ。だが、問題はそんなことではない。従兄弟の名前が、『清水時雨』であること。僕は今、その点で混乱している」

 伊東先生の従兄弟の名前が、清水時雨? 何を言っているんだ、暁人は。

「ごめん、もう一回言ってもらっていいかな?」

 咲夜が震えた声で言う。俺も今声を出したら、震えてしまうだろう。全く理解が出来ない。どうなっているのかもわからない。清水時雨、その名前は敵だとばかり思っていたのだが。

「だから、伊東先生の従兄弟の名前は『清水時雨』なんだ。僕だって理解はしきれていない。だが、これが事実だ」

「聞き間違いだったりはしないか?」

「僕も最初はそう思った。だから、訊き直したが答えは変わらずだった。夢野、そんなに疑うなら自分で訊きに行け」

 確かに、それはそうだ。自分で確認するのが一番手っ取り早い。

「今ならまだ、職員室に居ると思うぞ」

「わかった」

 俺は部室を飛び出し、職員室へと走り出す。部室棟から職員室までは距離があり、目的地に着く頃には息が切れていた。全速力で走ったせいだろう。少し息を整えてから中に入り、「伊東先生!」と声をかける。

「君は……夢野くんだよね。ごめん、まだ生徒の顔と名前が一致しきってなくて。どうしたの?」

 極力落ち着いた声を出せる様に努力したが、結果はそう上手くいかなかった。

「あの、先生の従兄弟の名前が『清水時雨』って本当なんですか」

「今日その話をするのは、実は二回目なんだ。皆そんなに僕の従兄弟が気になるのかな? それは置いておいて、正解だよ。何処から漏れた情報なのかわからないけど。確かに僕の従兄弟は清水時雨だよ。それがどうかしたの?」

「いえ、何でも……ちょっと確認したかっただけです。失礼します」

 確かに、間違いはない様だ。伊東先生は、トワイライト・ゾーンと関係があるのだろうか。そうは見えない。いや、浅野先生の時もそうだった。油断はできない。

 だが、夢の主にわざわざトワイライト・ゾーンの人間がなるだろうか? 頭が混乱してきた、部室へ帰りながら考え事をしても捗りそうにない。


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