カフェを出て、近所の公園のベンチに座る。状況を整理しようと、全員が必死だ。
「つまり、浅野先生は自分を偽って天城妃奈と付き合っていた……ということか」
暁人が今の俺たちの中では、一番冷静だった。
「そうなるのかな……。組織の為に、色々やってたみたいだね」
咲夜が落ち着き払っている様に見えるのは、キャパシティの限界を超えて一周まわっているのだろう。長いこと一緒に居るから、大体わかる。
「でも、彼が言ったことを鵜呑みにするのは危険だわ。何が本当で何が嘘なのか、今の私たちには判断しきれないもの」
望月の言うことは、正しい。俺はどちらかと言えば望月の考えに賛成だった。あの時雨が言うことの全てが本当だとは、考えられない。彼は気がついていないが、俺たちとは敵対関係にある組織の人間の言うことだ。信頼できないのは、当然のことの様に思える。
「ですが、私が思うに妃奈さんのことに関しては嘘をついていない雰囲気がありました。おそらく本当に取って代わられていたのでしょう」
月影にしては珍しく、感情に訴えかけてきている。信じたい気持ちもわかるが、本当に嘘か本当か区別がつかない。おじさんに相談するべきなのだろうか。
「なあ、おじさんに相談しないか? 俺たちだけで話していても埒が明かないだろ」
「賛成! おじさんにも聞いてもらおう」
俺たちは、月谷ネットカフェに向かった。
おじさんはいつもの様に、あたたかく俺たちを出迎えてくれた。
「今日はどうしたんだ?」
「清水時雨について、新しいことがわかったからおじさんにも聞いて欲しいんだ」
俺は、要約して先ほど話し合ったことを伝えた。おじさんは真剣に聞いてくれた後、口を開いた。
「つまり、何が本当で何が嘘かわからないってことだな。俺が真奈に連絡して、調べてもらうよう伝えるか。それでいいか?」
氷川さんの存在をすっかり忘れていた。確かにそれが一番確実だろう。
「それでよろしく」
一区切りついたと脳が判断したのか、安堵を腹が告げた。思えば、カフェでは何も食べてはいない。飲み物を飲んだだけだ。
「……何か、食べていくか? 簡単なものしか作れないが」
「頼む……」
おじさんの手料理は、少し久しぶりかもしれない。俺たちは椅子に座り、料理が出来上がるのを待つ。
「氷川さんに調べてもらえるなら、真実がはっきりしそうですね~!」
「どうだかな、彼女はスパイだからな。こちらを欺くことだって出来るだろう」
肯定的な月影と、否定的な暁人。
「いやでも、信じるしかないだろ。藁にも縋る思いってこういうことなんだと俺は思うよ」
「私も。今は副部長に賛成だわ。疑うのは簡単だけど、そればかりでは前進しないもの」
暁人は何も言葉を発さなかった。代わりに溜め息をついている。
「出来たぞ」
おじさんが作ってくれたのは、パスタだった。全部にミートソースがかかっている。味は同じみたいだ。食器とカトラリーを置かれたので、
「いただきます」
と空っぽの腹にパスタを運ぶ。皆、腹が減っていた様でしばらくの間は無言だった。
「美味しかった。ご馳走様」
それでも一番に食べ終わったのは俺で、次いで暁人だった。食べるのは俺たち男性陣の方が、やっぱり早い。
「ご馳走様でした。美味しかったです」
暁人は、おじさんに対していつも敬語だ。元運動部だからか、上下関係には厳しいみたいだ。
女性陣も食べ終えると、おじさんの携帯に着信があった。
「もしもし、真奈か。どうした? ……何だと? それは、本当なのか?」
相手は氷川さんみたいだ。俺たちの間に緊張感が走る。
「……そうか。伝えておく。そちらはもう少し調査を頼んだ。じゃあ」
おじさんは、耳から携帯を離した。
「落ち着いて聞いて欲しい」
そして俺たちに向き直ると、衝撃的な一言を放った。
「清水時雨が、車に轢かれたらしい。現在は意識不明の、重体だ」