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第147話

 岩崎本人に接触せざるをえない気がしてきた。本人が悪夢をどう思っているのか聞きたいし、その方が対策をしやすいからだ。

「明日の昼休み、岩崎に接触しようと思う。で、誰がいくかだけど……」

 暁人……いや、相性が悪そうだ。望月ではいささか目立ちすぎるしどうしたものか。

「私が行くよ、風紀委員として行けば怪しまれずに済むんじゃないかな?」

 確かに。学校の委員会という名目があれば、近づくこともできるだろう。だが、咲夜一人だと不安なのも事実だ。

「俺も一緒に行くよ、咲夜一人だとちょっと不安だ」

「獏……」

「決まりですね、じゃあ夢野くんと星川さんよろしくお願いします!」

 何だか大役を任された気分だ。あまりこういうのは柄じゃないんだが……。まあ、たまにはいいか。

「じゃあ、そろそろ一回家に帰るか。また後でな」

 一度解散にして、各々の家に帰ることにした。


 四大名家の人間は、教室で弁当を食べたりはしない。当然だが、食堂にもいない。彼ら専用の部屋で、豪華な昼食をとっている。……という、途中までは本当であろう噂が流れている。実際、岩崎は教室にも食堂にもいなかったのだ。このままでは部屋に辿り着く前に昼休みが終わってしまう。

「今日は諦める?」

 咲夜は残り時間を気にしてか、そう尋ねてきた。

「そうだな……もう少し噂を掘り下げたりするべきだったな。また明日探そう」

 放課後、長々と彼らが学校に居座っている様にも思えない。今日はもう探すのを諦めよう。放課後、その報告をするのは少し情けないが。


 翌日の昼休み。職員室の前に奇妙な部屋を発見した。

「謁見室……? 何だこれ」

「こんな部屋あったっけ? 見逃してたのかな」

「君たちだね、僕らのことを探していたのは。この部屋は普段隠してあるから、簡単には見つからないようになっているんだ。でも、君たちは何か重大な用事がきっとあるんだろう? おいでよ、この岩崎三成が案内しよう」

 声の主は岩崎だった。認知されてしまった以上、もう夢の再トライはできない。でも、覚悟を決めるしかない。

「頼む」

「お願い!」

「ついてきて」

 謁見室の扉を開けると、残りの三人が着席していた。昼食をとっている者、スマホを弄っている者。別に一体感がある訳ではなさそうだが、仲が悪い訳でもなさそうだ。

「そうだ、君たちの名前は?」

 唐突に聞かれ、一瞬言葉に詰まった。この空気は、圧迫されている様で苦手かもしれない。

「夢野獏だ」

「私は星川咲夜、漠の幼馴染」

 しん、と静まり返る部屋。全員の視線が俺に集まっていて、居心地が悪い。

「それで、何の用なんです? 僕は皇圭介と申します。以後お見知り置きを」

 こいつが皇か。艶のある黒髪は、良いものを使って手入れしているのだろう。

「用……か。岩崎と話がしたかったんだ、お前らには興味ない」

「え、僕? 別に良いけど……それなら外に出ようか。その方が話しやすいかな?」

 岩崎の提案は非常に空気を読んだものだった。三人を放置して一人とだけ話すのは、あまりよろしくないことに思えた。そもそも居心地が悪かった場所が、更にそうなってしまう。

「わかった。じゃあ、外で話そうな岩崎」

「早く行こう!」

 俺は半ば強引に、岩崎を屋上に案内した。今日も屋上は人がまばらだ。

「で、話って何かな。僕は今さっき君たちと会ったばっかりなんだけど」

「岩崎って帰国子女なんだろ」

 岩崎の顔を、季節外れの汗が伝ったのを俺は見逃さなかった。

「そこで、何かなかったか? 例えばいじめられたとか」

「な、何のことかな。そんな事実はないよ」

 こいつ、咲夜以上に嘘が下手かもしれない。

「事実がなくても、夢に見るとか……」

「そんなこともないよ⁉︎ 僕は普通に眠れてるし、執事を困らせたりもしてないし!」

 困らせてるのか……。まあ、あの夢の内容だとメンタル弱かったらやられてるだろう。弱くなくても、毎日同じ夢だったら擦り切れていくだろうが。

「そ、そうか」

「そうだよ。話はそれだけ?」

「ああいや、単純に留学していた時代の話を聞けたらな、と思ったんだ」

 それが、恐らく悪夢対策に一番効果的だろう。岩崎は何か考えているのか、やや間が空いてから口を開いた。

「それなら、僕の家に招待しよう。今日帰りに、また謁見室に来てくれるかな」

「有難う。必ず行く」

「私も!」

「じゃあ、そろそろ昼休みが終わるから一旦また後で」

 岩崎は屋上を出て行った。

「……俺たちも戻るか」

「だね」

 俺たちも屋上を後にした。


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