岩崎本人に接触せざるをえない気がしてきた。本人が悪夢をどう思っているのか聞きたいし、その方が対策をしやすいからだ。
「明日の昼休み、岩崎に接触しようと思う。で、誰がいくかだけど……」
暁人……いや、相性が悪そうだ。望月ではいささか目立ちすぎるしどうしたものか。
「私が行くよ、風紀委員として行けば怪しまれずに済むんじゃないかな?」
確かに。学校の委員会という名目があれば、近づくこともできるだろう。だが、咲夜一人だと不安なのも事実だ。
「俺も一緒に行くよ、咲夜一人だとちょっと不安だ」
「獏……」
「決まりですね、じゃあ夢野くんと星川さんよろしくお願いします!」
何だか大役を任された気分だ。あまりこういうのは柄じゃないんだが……。まあ、たまにはいいか。
「じゃあ、そろそろ一回家に帰るか。また後でな」
一度解散にして、各々の家に帰ることにした。
四大名家の人間は、教室で弁当を食べたりはしない。当然だが、食堂にもいない。彼ら専用の部屋で、豪華な昼食をとっている。……という、途中までは本当であろう噂が流れている。実際、岩崎は教室にも食堂にもいなかったのだ。このままでは部屋に辿り着く前に昼休みが終わってしまう。
「今日は諦める?」
咲夜は残り時間を気にしてか、そう尋ねてきた。
「そうだな……もう少し噂を掘り下げたりするべきだったな。また明日探そう」
放課後、長々と彼らが学校に居座っている様にも思えない。今日はもう探すのを諦めよう。放課後、その報告をするのは少し情けないが。
翌日の昼休み。職員室の前に奇妙な部屋を発見した。
「謁見室……? 何だこれ」
「こんな部屋あったっけ? 見逃してたのかな」
「君たちだね、僕らのことを探していたのは。この部屋は普段隠してあるから、簡単には見つからないようになっているんだ。でも、君たちは何か重大な用事がきっとあるんだろう? おいでよ、この岩崎三成が案内しよう」
声の主は岩崎だった。認知されてしまった以上、もう夢の再トライはできない。でも、覚悟を決めるしかない。
「頼む」
「お願い!」
「ついてきて」
謁見室の扉を開けると、残りの三人が着席していた。昼食をとっている者、スマホを弄っている者。別に一体感がある訳ではなさそうだが、仲が悪い訳でもなさそうだ。
「そうだ、君たちの名前は?」
唐突に聞かれ、一瞬言葉に詰まった。この空気は、圧迫されている様で苦手かもしれない。
「夢野獏だ」
「私は星川咲夜、漠の幼馴染」
しん、と静まり返る部屋。全員の視線が俺に集まっていて、居心地が悪い。
「それで、何の用なんです? 僕は皇圭介と申します。以後お見知り置きを」
こいつが皇か。艶のある黒髪は、良いものを使って手入れしているのだろう。
「用……か。岩崎と話がしたかったんだ、お前らには興味ない」
「え、僕? 別に良いけど……それなら外に出ようか。その方が話しやすいかな?」
岩崎の提案は非常に空気を読んだものだった。三人を放置して一人とだけ話すのは、あまりよろしくないことに思えた。そもそも居心地が悪かった場所が、更にそうなってしまう。
「わかった。じゃあ、外で話そうな岩崎」
「早く行こう!」
俺は半ば強引に、岩崎を屋上に案内した。今日も屋上は人がまばらだ。
「で、話って何かな。僕は今さっき君たちと会ったばっかりなんだけど」
「岩崎って帰国子女なんだろ」
岩崎の顔を、季節外れの汗が伝ったのを俺は見逃さなかった。
「そこで、何かなかったか? 例えばいじめられたとか」
「な、何のことかな。そんな事実はないよ」
こいつ、咲夜以上に嘘が下手かもしれない。
「事実がなくても、夢に見るとか……」
「そんなこともないよ⁉︎ 僕は普通に眠れてるし、執事を困らせたりもしてないし!」
困らせてるのか……。まあ、あの夢の内容だとメンタル弱かったらやられてるだろう。弱くなくても、毎日同じ夢だったら擦り切れていくだろうが。
「そ、そうか」
「そうだよ。話はそれだけ?」
「ああいや、単純に留学していた時代の話を聞けたらな、と思ったんだ」
それが、恐らく悪夢対策に一番効果的だろう。岩崎は何か考えているのか、やや間が空いてから口を開いた。
「それなら、僕の家に招待しよう。今日帰りに、また謁見室に来てくれるかな」
「有難う。必ず行く」
「私も!」
「じゃあ、そろそろ昼休みが終わるから一旦また後で」
岩崎は屋上を出て行った。
「……俺たちも戻るか」
「だね」
俺たちも屋上を後にした。