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第149話

 岩崎家は、当然なのかもしれないが複数台車があった。

「お嬢さんはそちらの車に、貴方はこちらの車にどうぞ」

「家の方面同じなので、同じ車で大丈夫です」

 そう告げると、「ではこちらに」と行きと同じ赤い車に案内された。運転手が居るから、悪夢の話をすることは出来ない。

「岩崎くん、色々大変そうだったね」

「そうだな……」

 これは、もう一度作戦会議をする必要があるだろう。スマホを取り出し、メッセージを送信する。

『明日、昼休みに作戦会議をしよう』

 即座に既読マークがつくことはなかったが、そのうち読んでくれるだろう。


 車窓からの風景が見知ったものになっていく。もう家が近い。

「ここで降ろしてください」

「私も、もう大丈夫です」

「そうですか。三成さまのご友人様、またいらしてくださいね」

 運転手は路肩に車を寄せ、ドアを開けた。やっと解放される……。そう思いながら車から降りる。辺りは既に橙色に染まっている。

「……帰るか」

「だね」

 二人で歩くことに、こんなに安堵したのはいつぶりだろう。初めてかもしれない。あの空間では息が詰まっていたんだと、改めて実感する。

「……あのさ、獏」

「何だ?」

 咲夜は俺の手を握り、真っすぐな視線で訴えかけてきた。

「岩崎くんのこと、絶対助けようね!」

「おう」

「それじゃ、私の家の前まで来ちゃったから……また明日ね!」

 咲夜は家のドアに鍵を差し込み、半回転させると中に消えた。それを確認してから、俺も家の方へ歩き出す。今夜の夕飯は何だろうな。


***


 翌日の昼休み。五人揃って会議をすることになった。

「なるほど、今より数年前の記憶だったって訳ね。だとしても、助け方は簡単に浮かばない訳だけれど」

 望月の言う通りだ。三人集まれば文殊の知恵と言うが、五人いても解決策は出てこない。

「あの金髪男の頭を撃ちぬいちゃうとか?」

「余計にトラウマにならないか? それ……」

 極力、岩崎に認知されない方向で助けたい。何故かと言うと、目立つ連中に認知されても特に良いことはないからだ。望月の気持ちが最近、少しわかるようになってきた。

「デコレーターで、落とし穴を作ることも考えたが……下手すると岩崎の方が落ちかねないからな」

 確かに、位置を間違えてしまえば岩崎の方が落ちてしまうだろう。そうなっては大変だ。

「じゃあ、どうする?」

「「……」」

 黙り込むしかない。現状、良さそうな案が何も浮かばないからだ。

「……岩崎くんの通っていた学校って、この校舎ととてもよく似ていたよね。もしかして、姉妹校なんじゃないかな?」

「そうだな……その可能性はあると思う」

 月見野学園高校には、実は中等部も存在する。岩崎は名家の推薦か何かで高校に編入したのかと思っていたが、もしかしたら交換留学だったのか? いや、親の都合だったはずだしアメリカからロンドンに移動もしている。余計なことを考えてしまった。

「姉妹校だったからって、何か変わるのか?」

 俺は先ほど考えたことを皆に伝えた。

「確かに……。副部長の言う通り、そもそも姉妹校かもわからないのに余計なことを考えるのは危険だわ。多分、岩崎くんが虐められていたのって人種差別的な要素が大きいと思うのよね。だから、私がアメリカ人っぽい誰かに変身して止める……のが現実的だと思うのよ。夢なのに現実的って言うのもおかしいけれど」

 確かに、望月の言うことは一理ある。最近望月への負担が大きい気もするが、頼れる存在だ。

「アメリカ人っぽい誰か、か……この学校人数多いから交換留学生とかをあたってみるか。咲夜、見つけられそうか?」

「うん、頑張って探してみる。でも、すぐにはいかないかも」

「大丈夫だ。焦るな」

 そう落ち着かせると、咲夜は頷いた。

「じゃあ、時間も時間だし一度解散にするか。明日の昼休みに成果報告としてまた集まろう」

 俺の言葉で、この場は解散となった。


***


 あれから数日が経った。他のメンバーも留学生を探してはいるが、中々見つからない。この学校のことだ、居ないことはないと思うのだが……。

昼休みに、進捗報告をしていると望月が言った。

「私、見つけたのよ。交換留学生の女の子。相手が英語しか話せなかったから、話はしていないのだけれど」

「なら、僕が代わりに話そう。放課後、その人の元へ案内してくれ」

 暁人は英語をどれくらい話せるのか、全くわからない。が、俺が出るよりはマシだろう。この二人なら上手くいくという安心感もあった。だから、

「頼んだぞ、二人とも」

 こういった台詞がすんなりと口から零れたのだろう。

「ちなみに、ネルミが見つけた交換留学生ってどんな人?」

 咲夜が問う。俺もそれは気になっていたところだ。

「青い瞳に、長く緩やかなカールが特徴的な金髪の女の子よ。名前は、レイ・ライト。演劇部の友人の友人、ってところね」

 レイ・ライト。名前に聞き覚えがないということは、俺は見つけられなかったのだ。それは咲夜や月影も同様で、皆黙り込んでいる。

 それにしても金髪、か。外国人なら珍しいことはないだろうが、俺は以前戦った神谷天のことを思い出していた。彼女は日本語話者ではあったが金髪だ。瞳の色はオレンジだったが。もし、レイ・ライトが神谷天だったら——いや、流石に考えすぎか。

「じゃあ、放課後は頼んだぞ」

「ええ。任せて」

 俺の不安は、変な時に的中する。この時はまだそれを、知る由もないが。



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