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第150話

 放課後、望月と暁人は部室に金髪の女子を連れ込んだ。それがレイ・ライトであることは明らかだ。彼女は戸惑っているのだろう、辺りをキョロキョロ見回している。

「~~~?」

「~~~、~~」

何かを話している暁人とレイ。単語から察するに、『なぜ自分がここに連れてこられたのか』を話しているようだ。それにしても、暁人の英語は思っていたよりずっと流暢だ。海外に留学していた経験でもあるのだろうか?

「~~……!」

 レイは、あまり協力的ではないみたいだ。得体のしれない連中からいきなり部室に連れてこられたんだ、そりゃあそうだよな。俺たちも彼女本人が目的なのではなくて、望月が変身できる相手を探していただけだ。

「暁人、もう十分だろ。彼女を解放しよう」

「しかし……望月は大丈夫なのか?」

「私は、大丈夫。レイさんの見た目はわかっているし、部室までの道のりで性格は大体わかったわ。問題なく出来ると思う」

「そうか」

 きょとんとした顔のレイに、暁人は言う。

「~~、~~~」

「オーケー」

 そう言うが早いか、レイは部室から飛び出していった。彼女の姿が見えなくなるまで、誰も言葉を発さなかった。よほど居心地が悪かったのだろう。

「さて、これでやれることは全部やったな。後は、今夜岩崎を助け出すだけだ」

「そうだね」

 これ以上ぐだぐだ部室で話し合っても、仕方がない。

「一回解散、いつもの時間にいつもの場所で!」

 この場はこれにて解散になった。後は、やるだけだ。


***


 深夜零時、おじさんのカフェの前にはもう皆集まっていた。また俺が一番最後か。親の目を盗んできているから、仕方ないことではあるのだが……。点呼をとられ、横になる。いつも通り目を閉じ、先導され岩崎の夢に辿り着く。

「じゃあ、頼みましたよ」

「おう」

 前回発見した岩崎がいる教室へ急ぐ。しかし、そこに立ち塞がる光の様に輝かしい金髪をなびかせる美女。

「久しぶりばい、夢野獏とその仲間。今回は上手くいかんよ、この神谷天が相手やけんね!」

「おわっ!?」

言うが早いか、素早い蹴りを繰り出す神谷。このままでは、時間切れになってしまうかもしれない。というか、何でこいつがここに居るんだ?

「望月、一人でいけるか?」

「……やってみるわ」

 彼女の身体が光に包まれ、レイの姿になる。

「逃がさん!」

 望月を追いかけようとする神谷に

「まずはこっちを相手しろ、年増」

暁人は冷静にデコレーターを発動させた。神谷と俺たちの間に深い穴があく。

「随分荒っぽいこっすっとねー! 落ちたら死ぬばい、こっちも本気でやる必要がありそうね」

神谷は屈伸すると、穴を飛び越えて俺たちの後ろに回った。マズい、そう思った時には咲夜が膝蹴りをくらっていた。

「動かん方がよかよ、多分骨折れとるけん」

「げほっ……」

 咲夜は赤く鉄臭い液体を吐き出した。顔が見る見るうちに苦痛に歪んでいく。これでは、戦闘は厳しいだろう。

「夢野獏、アンタは最後やけん安心しゃい」

「……デコレーター!」

暁人は、自分の立っている足場を底上げした。確かにこれなら、神谷の攻撃は届かない——

「ぐわあっ!」

 何が起こったのかわからないが、暁人は酷く苦しそうだ。荒い呼吸音が聞こえる。顔はここからだとよく見えないが、咲夜と同じく苦しそうな表情なのだろうという想像はつく。

「神谷、お前……何をした⁉」

「何も。アタシ、幽霊とか見えるけんちょっと協力して貰っただけよ」

 そんなのアリなのか。いや、俺たちの力もそんなのアリかと問われればナシと言われるかもしれないが……。この女、偽時雨よりもずっと強い。俺がやられる前に望月が任務を達成してくれることを祈るしかない。教室の中を見ると、金髪の男性と望月が口論になっている。これは、今までの中で一番厳しいかもしれない。

「よそ見してる暇なんか、なかと」

「うっせえよ、今回の夢の真の主はお前の癖に」

「……あー、わかっとった? 時雨も同じことしたとか? まあ何でもよかばってん、どうせここで殺すけんね」

 神谷は目を瞑ると、手を俺の方に出し握りしめた。途端に、苦しくなる呼吸。ああ、そうか……こいつ特殊能力か何かで俺の首を絞めているのか。

「副部長、今よ!」

 段々遠のく意識の中で、何とか能力を発現させる。キメ台詞は、今日は言えそうにないな……。


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