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第151話

 目が覚めると、いつもの光景が目に飛び込んできた。

「そうだ、咲夜と暁人は——」

 辺りを見渡す。二人は無事なのだろうか。身体は無事でも、精神が無事じゃなかったらどうしたらいい。二人とも手酷くやられていた様に思うが……。

「私? 私がどうかしたの?」

「あの神谷とかいう女、確かに強いな。だがそれで、挫ける僕ではない」

 目尻を透明な液体が伝った。涙ではない。きっと。多分。少し鼻水も出て来て、格好悪いけれど。二人が無事で、本当に良かった。

「二人が無事で、良かった。俺のこと心配してくれた心も、身をもってわかったよ」

「何だ急に……。心配かけてすまなかったな、夢野」

 これでお互い様だ。この言葉は口には出さず、心にしまっておく。

「それにしても、倒しても倒しても敵が出てくるなんてキリがないよ。もう、いっそのこと敵の本部に乗り込んでやりたいくらい!」

「そうだな……。本部の位置が分かれば、それも良い案だと思う」

 神谷の強さは、俺と同じで夢の中の強さだ。実際に現実で幽霊を使役できるとは思えないので、現実で戦えば勝機はあるだろう。

「おじさんは、本部の位置とかわかったり……するのか?」

「……」

 おじさんからの返答はない。

「ねえ、何で何も話してくれないの? もしかして、言えない場所?」

「……そうだ。ここから先は、社会の暗部だ。皆、覚悟を決めろ。」

 大真面目なおじさんの放つオーラに、吞まれそうだ。それでも、俺たちは知らなきゃならない。

「覚悟はとっくに出来てる。教えてくれ、おじさん。トワイライト・ゾーンの本部を」


「——だ」

「え?」

急に声が小さくなって、聞き取れなかった。

「月見野学園高校だ。あの学校の理事長が、天城グループを吸収しトワイライト・ゾーンを創立した張本人。名前は——」

 暁人がおじさんの言葉の先を引き取った。

「月見野鶯、という訳か」

 言葉にならなかった。言葉が、思い浮かばなかった。この感情を何と表現していいのか、まだ十六年しか生きていない俺にはわからない。

 今まで俺たちを野放しにしてきた理由も、何となくそれなら理解できる。研究データにでも使用されていたのだろう。俺たちの戦い、清水時雨に天城妃奈、全てが。

「あの学校の教師は、今年入った新米や非常勤講師を除けば全てトワイライト・ゾーンの一員だ。すまない、俺が心の何処かで怯えていて言うのが遅れて」

「仕方ない、おじさんは最善を尽くしてくれたと俺は思うよ」

「そうだよ! 学校が本部なら、いくらでも戦う手段を考えられるし」

「そうか……。くれぐれも、無茶はするなよ」

 おじさんは、今にも泣きそうな顔でそう言った。

「とりあえず、放課後に集まる場所をここにしよう。学校内だと、理事長に盗聴される可能性がある」

「そうだな」

 暁人の提案を受け、快諾する。月見野鶯がどんな人間だか知らないが、ここまで自分の生徒に被害を出すとはロクな人間ではないという想像はつく。

「とりあえず、今日はもう遅いし帰るか。昼休みの集まりはどうする?」

「当たり障りのない会話でやり過ごしましょう。急に部室に音沙汰がなくなったら流石に不自然よ」

「確かに……」

 今後の方針が決まったところで、解散となった。


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