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第152話

 翌日の放課後。俺たちはおじさんのカフェに集まっていた。

「学校が奴らの本部である以上、迂闊な行動は出来ないぞ。保健室でさえ利用するのを控えた方が良いだろう」

 暁人の言うことはもっともだ。

「新海先生が奴らの一員だとは、思えないけど……」

 咲夜の反論を聞いて、思い出した。以前保健室で寝ている時の夢に介入してきた女の存在を。

「いや、俺は新海先生も奴らの一員だと思うよ」

 思い出したことを話すと、咲夜は「そうなんだ……」と苦虫をすり潰した様な顔をした。

「じゃあ、本当に先生は皆敵って訳ね」

「先生だけじゃないですよ。生徒だってその可能性があります」

 確かに、四大名家などいかにも怪しい。何の目的があって学園に多大な寄付をしているのだろう。考えれば考えるほど、沼にはまりそうだ。月見野学園高校、恐るべし。いや、恐るべしなのはトワイライト・ゾーンの方か。

「岩崎は何か知っているかもしれないな」

「知っていたとしても、教えて貰えるかしら? 副部長と星川さんが一緒にお茶しただけでしょう?」

 望月の言う通りだ。俺と岩崎はクラスメイトですらない。だが、岩崎の執事は俺のことを『ご学友』と呼んでいたし、岩崎本人も満更でもない感じだった。岩崎から話を聞くのは、案外良いかもしれない。

「望月、俺が岩崎に話を聞いてみるよ。明日になるけど」

「副部長……。確実に真相に辿りつけるとは限らないのよ」

 望月は、恐らく慎重になれと言いたいのだろう。だが、倒す敵がはっきりした今躊躇していても仕方がない。

「回り道でも良い。訊いてみなければ何も始まらないからな。そうだろ?」

「そうですね。私は、夢野くんに賛成です」

 月影から援護されるとは思わなかったが、仲間が居るのは心強い。

「じゃあ、そういうことで。今日は解散にするか」

 俺たちはおじさんのカフェを出た。


***


 岩崎とは連絡先を交換していたので、メッセージを送る。

『岩崎、明日の放課後は暇か? 訊きたいことがあるんだけど』

 返信は予想より早かった。

『暇だよ。また話せるなんて楽しみだな。僕の家に招待するよ』

『いや、俺の家に今度は招待するよ。岩崎の家みたいに金持ちじゃないけどさ』

 四大名家の邸宅に、盗聴器がないとも限らない。躊躇はせずとも、警戒はする。それが俺のスタンスだ。

『本当かい? 僕は友達の家に行くことが基本無いから楽しみにしているよ』

 確かに、いかにもなさそうだ。庶民の家で悪いとは思うが、岩崎本人も新鮮な体験が出来るはずだ。期待して貰おう。


「母さん、明日友達が家に来るから」

「え、明日は私仕事よ。獏、粗相はない様にしてね」

 俺の家は共働きだ。父親は単身赴任で関西に行っていて、滅多に戻ってこない。母親はスーパーで働いている。こっちは昼間の業務だけなので、夜は家に居る。

「わかってるって。この家って紅茶の茶葉あったっけ?」

「インスタントのしかないわよ」

 やっぱり岩崎の家とは根本的に違う。仕方がないことだが。

「そっか。まあ、そうだよな」

「どうかしたの?」

 呟いた言葉を拾われ、何だか申し訳なくなった。

「いや、何でもない」

「そういえば、最近獏は夜に出歩かなくなったわね。それが当たり前だけど……」

「まあな」

 どうやら、最近の行動はバレていない様だ。その方がやりやすくて有難い。親の目を気にした甲斐があった。

 その後は、特に何事もなく食事は終わった。


***


俺の部屋を掃除して、眠りにつく。思えば、悪夢を退治する中で沢山の出会いがあった。伊達や米津、佐久間三兄弟、そして何よりドリームイーターズのメンバー。大きな戦いは次が最後になるだろう。気を引き締めないとな。そう思いながら眠りについた。


翌日の放課後、岩崎を校門付近で待つ。しばらくすると、彼の姿が目に入った。

「ごめんね、遅くなって」

「いいよ、行こうぜ。俺の家近いから、歩きだけど大丈夫か?」

「僕だっていつも車移動な訳じゃないよ。大丈夫」

 俺の後をついてくる岩崎。道中は無難な会話しか出来なかったし、しなかった。

「ここが俺の家。狭くて悪いな」

「謙遜はいいよ。それより、本題があるんじゃないかい?」

 お邪魔します、と岩崎が家にあがる。それにしても、勘が鋭い。それはそうか、先日知り合ったばかりの友人が二人で話したいなんてただ事ではない。

「俺の部屋に来てくれ」

「わかった」

 二階の俺の部屋に招き入れ、「ベッドに座っていいからな」と声をかける。岩崎はそれに従って、ベッドに腰掛けた。

「……で、訊きたいことって何だい?」

「率直に言うと、四大名家が何故この学校に多額の寄付をしているのか知りたいんだ。何の利益もなしに寄付をしているとは考えづらいだろ?」

 岩崎は目を逸らさず、ただ黙っていた。

「……」

「岩崎?」

「その件については、正直なところ僕も分からない。わかるとしたら、皇くんくらいだろうね。明日、また謁見室まで来られるかい? 彼のことを紹介するよ」

 皇圭介。以前少しだけ会話をしたときは気難しそうな印象だったが——そこは岩崎がどうにかしてくれるのだろうか。いや、してもらわなければ話すのも厳しいだろう。

「わかった、行こう」

「うん、待ってるよ。話はこれだけ?」

「ああ、わざわざ呼んで悪かったな。インスタントでも良いなら紅茶も淹れられるけど」

「じゃあ、飲んでから帰ろうかな。悪いけど、準備してくれるかい?」

「はいよ」

 俺は台所で紅茶を淹れた。岩崎の口に合えばいいのだが……。

「はい、紅茶。砂糖は入れてある」

「ありがとう。これはこれでアリだな……」

独り言だったのだろうが、それを聞き逃す俺ではない。まあ、これは聞き逃さなかったからなんだという話だが。


紅茶を飲み終え、帰る岩崎。家の前には以前見た高級車が停まっており、岩崎はそれに当たり前の様に乗って帰っていった。明日は皇圭介の懐に入り込まなければ。


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