放課後。校門に行くと、澤柳は既に待っていた。青色の車と共に。
「折角だし、車で行こう。ここからどれくらい?」
「そうだな……そんなにはかからないけど……」
そもそも、車で行く様な距離ではない。教えなかった俺にも非があるが、これは都会の子はもやしっ子と言われても仕方がない移動手段だ。こいつら皆車で移動してるな……。
ネットカフェに着くと、澤柳は目を丸くした。
「ここが……カフェ?」
「所謂ネットカフェだな。まあ、入れよ。寒いだろ?」
「う、うん」
カフェの中は静かだが、暖房器具によって気温は温かい。俺は奥に繋がる扉を開け、澤柳を通す。
「……え? 一対一じゃないの?」
そこに居たメンバーを見回し、澤柳は更に目を丸くした。
「望月さん……久しぶり」
「澤柳くん、久しぶりね。演劇部を退部して以来かしら?」
どうやら、望月と何らかの交流があったらしい。それならそうと教えてくれれば、もう少しスムーズに事が進んだかもしれないのに……。今更嘆いても仕方がないが。
「これは、どういう集まり?」
「貴様のことを気に入っている、理事長の話が聞きたいんだ」
暁人が率直に質問した。
「理事長は、普段何処に居る?」
「……君たちにそれを教える必要はないし、教えられないよ。僕は理事長とそう取り決めたんだ」
なるほど、知っているのは確定らしい。だが、ここで引き下がる俺たちではない。
「そこを何とか。澤柳くんだって、理事長がおかしいのはわかってるはず。私たちは、『トワイライト・ゾーン』のことも、彼女のせいで救えなかった命があることも全部わかってる。だから、理事長と戦わないといけないの。教えて、お願い」
咲夜の真っすぐな視線に、何か思うところがあったのだろう。澤柳は、目尻に涙を溜めながら黙り込んでしまった。そして頬に涙が伝い始めた頃、彼はやっと話し始めた。
「理事長は……職員室の奥の、理事長室に大体居るよ。僕ら生徒じゃ、辿りつけないところ。……理事長は、僕に居場所をくれた唯一の人なんだ。四大名家に馴染めなかった時、助け船を出してくれたり。僕には伸びしろしかないから成長できるって褒めてくれたり。僕の学園生活において、理事長は絶対の存在だったんだ。でも、悪いことをしているのもわかってる。僕は、どうすれば——」
ぜえ、ぜえと息が切れ始めた澤柳を思いっきり抱きしめる。どうしてこんな行動に出たのか自分でも理解できない。だけど、意味のある行動だったと思う。
「落ち着け、お前は偉いよ。絶対だと思っていた存在が悪いことをしているとわかったから、話してくれたんだろ? そんなの、誰だって出来ることじゃない。俺にだって、出来るかは怪しい。本当にありがとう」
「りじ、ちょ、ごめん、なさ——」
澤柳は、俺の胸で泣き始めてしまった。こうなっては、落ち着くのを待つしかない。
十分ほど経っただろうか。澤柳は落ち着いてきて、普通に言葉を話せるようになった。
「皆の前で、情けない姿を見せてごめんね。僕はもう帰るよ。じゃあね」
「……また、な」
カフェの入り口まで澤柳に同行し、車に乗ったのを見届けて奥に戻る。
「しかし、職員室となると先生側に仲間が居ないと厳しいな。皆、トワイライト・ゾーンの一員なのだろう?」
暁人の言う通りだ。俺たちは、トワイライト・ゾーンの中に丸腰で潜入する訳にもいかないし……。そもそも、理事長室が職員室の奥というのも厄介だ。夢でならデコレーターで何とか出来そうだが、現実だとそうもいかない。
「それなんですけど、私達の今の臨時担任の伊東先生は違う気がするんです。従兄弟が一員でしたけど、伊東先生本人は浅野先生の死に心から驚いている様に見えました。それに、今年から学校に入った新人です。賭けてみませんか。伊東先生に」
それは俺も薄々感じていたことだった。伊東先生は白なのではないか、というのは今の月影の言葉通り思っていたのだ。
「じゃあ、部長と副部長が交渉しに行ってみるというのは?」
「夢野くんにばかり任せていては、負担が大きいでしょうしここは私が行きます。夢野くんは、四大名家の一件でとても頑張ってくれましたから。少し休んでいてください」
「……わかった。この件は月影に任せたからな」
話し合いをしていたら、時刻は六時をまわっていた。そろそろ解散の時間だ。
「よし。じゃあ、いい時間だし今日はここまで。明日また学校で会おうな!」
俺たちはネットカフェを後にした。