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第158話

 翌日から、月影は伊東先生接触し始めた。一週間ほど経った放課後、彼女は切り出した。

「伊東先生が、皆さんに会いたいと仰っています。私としては反対する理由はないのですが……」

 遠慮がちな月影に

「私なら構わないわよ。現状、月見野鶯に接触するためには彼の協力が不可欠だもの」

「ああ、僕も構わない。夢野と星川はどうだ?」

 暁人は目線をこちらに投げた。

「私は大丈夫だよ!」

「俺も。断る理由がないからな」

 全員の了承を得てほっとしたのか、月影は胸を撫でおろした。

「では、伝えておきますね。月見野鶯に接触できるかは、正直賭けの要素も強いですが……それでも、協力者は必要です。くれぐれも、粗相のない様にお願いします!」

 しかし、伊東先生とはどこで会うのだろう。このカフェか?

「あのさ月影、どこで会うんだ?」

「とっておきの場所がありますよ」

「とっておきの場所?」

 ということは、このカフェではないのか。

「はい。本物の時雨さんの病室です。あそこなら病院の管理下ですし、いかにトワイライト・ゾーンと言えど工作は簡単ではないはずですから」

 確かに。

「でも、伊東先生来てくれるかな? あんまり仲良くないんでしょ?」

「そうですが……伊東先生は人が好さそうですし、言えば来てくれそうじゃないですか?」

「確かに、それはそうだな。担任になってからわかったけど、相当なお人好しだと思うよ」

「二人がそう言うなら……」

 咲夜は納得はしていないのだろうが、食い下がった。

「で、いつ会うんだ」

「そうですね……明日先生に話すので、早ければ明日で遅くとも今週中には」

 今週学校に顔を出すのは、残り三日しかないのだが……。つまり、三日以内に時雨の病室に行くということか。久しぶりに会う時雨は、少しは回復していると良いのだが……。


 翌日。

『話がつきました。今日の放課後は病院に集合しましょう』

流石にスマホの中身までは見られていないだろう。了解の意のスタンプを送ると、一気に緊張してきた。数週間ぶりの時雨、伊東先生……何も起きないと良いのだが。弁当の味が薄れてきた。今はこのことを考えるのはやめよう。


 この日の放課後、俺たちは時雨の病室を訪れていた。伊東先生は後から行くとのことで、まずは俺たち五人と時雨との対話から始まった。

「トワイライト・ゾーンの情報を集めてみたぞ」

「へえ、どんな内容?」

 俺たちは、集めた情報を時雨に伝えた。

「そんなところまでわかっていたのか、そうだよ。俺の今の雇い主は月見野鶯だ。で、それがわかったところでどうするんだ? 彼女は滅多に人前に姿を現さないとも言われているのに」

「そこで、伊東先生だよ。彼なら職員だから、理事長室の存在も知っているはず。あまり巻き込みたくはないから、鍵だけ貰うつもりだ」

「……そうか。お、噂をすれば優介だ」

 伊東先生は、「遅れてごめん! 時雨も一緒ってことは……どういうことだろう」と首を傾げている。

「伊東先生、私たちは『トワイライト・ゾーン』という組織を追っています。そこで、その組織に所属している時雨さんから話を聞きたいと思って」

「うん、それと僕に何の関係があるの?」

 伊東先生はただ困惑しているみたいだ。当たり前だよな。

「……学校の先生が軒並み『トワイライト・ゾーン』の人間であることはご存知ですか?」

「え、そうなの⁉ というか、『トワイライト・ゾーン』って何?」

 月影の問いに、目を丸くする先生。やはり、何も知らないのだろうか。

「そうなんです。伊東先生は、理事長が何処に居るのかご存知ですよね? 私たちは訳あって理事長に会わなければなりません。その為には、伊東先生の力が不可欠なんです」

 月影の上目遣いが効いたのか、先生は考える素振りを見せた。しばらく経った後、彼は言った。

「理事長に会わせることは出来るよ。でも、ちゃんと説明して貰わないと難しいかな」

「わかりました」

 俺は語った。四大名家のこと、月見野鶯のやろうとしていることを。俺たちの夢の能力は伏せたまま、上手く説明できたと思う。

「にわかには信じがたい話だけど……時雨が怪我したのもそういう事情が絡んでいるなら納得はいくかな。いいよ、理事長に会いたいなら協力しよう。その為には乗り越えなきゃいけないものが多すぎるけどね……。先生は全員敵なんでしょ? 理事長の部屋は職員室の奥だから、そこを怪しまれずに通過しないといけないし」

 やはり、問題はそこだ。

「逆に、月見野鶯をこちらに引っぱりだすのはどうでしょうか? 彼女が理事長室から出てくるように仕向けるとか」

 暁人の提案は、確かに一理ある。

「……どうやって?」

「それは今考えているところだ」

 咲夜からの問いは冷たくあしらい、暁人は口に手をあてた。俺たちも考えてはみるが、案が一向に浮かばない。

「俺がやってみる。学校の関係者ではないけど、俺だって『トワイライト・ゾーン』の一員だ。俺なら、上司を外に連れ出すことも不可能ではない……と思う」

 そんなものなのか。だが、今のところそれが唯一の手段だ。賭けてみるしかない。

「じゃあ、お願いして良いですか」

「任せてくれ、とは言えないが……努力してみるよ」

 成功率が低いことは、今の発言で十分読み取れた。後は、結果を待つだけだ。そもそも、時雨が退院してからの話になるだろうから進展があるのはもっと先だろう。

「お大事に。僕らは帰るよ。まだ学校でテストの採点とかしなきゃいけないし」

「失礼しました」

 俺たちは、時雨の病室を後にした。


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