目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第三十章 最終決戦編

第159話

 あれから一週間が経った。時雨は、今日が退院日だ。計画を実行に移す日も近い。

 時雨は俺たちに向き直り、スマホを取り出す。

「今から、本部の方に連絡してみる。とは言っても、俺は下っ端だからもう首切られてるかもしれないけどな」

 彼は、耳に携帯電話をあてた。しばらくすると、繋がったのか話し始めた。

「清水です、本日無事に退院しました。ボスの現在地ってわかったりしませんよね?」

 時雨は溜め息をつき、「そうですか。ありがとうございます」と電話を切った。

 結果は聞かなくてもわかる。惨敗だろう。

「力になれなくてごめんな。これ以上やると流石に怪しまれるからさ」

 それはそうだろう。俺が逆の立場だったら、とっくのとうに怪しんでいる。

「謝ることないですよ~。元々私たちの問題なので、私たちが何とかします~!」

 月影の言う通り、これは俺たちの問題だ。時雨はよく助けてくれたと思う。

「そうか。じゃあ、後は任せた」

 時雨は振り返ることなく、病院の敷地外へ出た。俺たちはそれを追いかけるでもなく、その場に立ち尽くしている。

「あ、ねえ、私良い案思いついたかも!」

「何だ星川」

 唐突な咲夜の提案に、耳を傾ける俺たち。

「夢の中の学校なら、先生も居ないし理事長室にもデコレーターで入れるんじゃないかな? そしたら、こっちも能力が使えるし理事長を倒せるかも」

 確かに、言われてみると一理ある。

「じゃあ、誰かが悪夢を見るってこと?」

「悪夢は見なくても、夢の中への侵入は出来ますよ。倒すべき敵もちゃんと居ますしね。誰か一人が悪夢を見るというより、全員で同じ夢を共有する形にはなるでしょうが……」

 初耳だった。そして、理事長の前にどうにかしなければいけない相手がいることを思い出す。

「理事長はそれでどうにかするとして……神谷はどうするんだ? 野放しって訳にもいかないだろ。夢の中だと勝ち目がないから、本体を探さなきゃいけないし」

 悔しいが、神谷の実力は俺の数段上だ。勝てるビジョンが浮かばない。

「神谷さんについては、情報が少なくて不明な点だらけです。ただ、この学校の生徒か先生であることくらいしか……」

 先生の中に金髪は、俺が把握している限り居ない。だとすると生徒だが……。

「レイ・ライト!」

 確かに彼女は、金髪だ。言葉はわからないフリをすればいいし、無い可能性ではない。瞳の色くらいは、カラコンで何とかなるだろう。

「彼女が? とてもじゃないけれど、信じがたいわね……」

 一度彼女に変身したことがある望月は、否定的だった。俺よりもレイのことに詳しそうだしな……。

「僕は、夢野の意見に賛成だ。疑わしきは罰していかなければ、話が進まないだろう」

「暁人……」

「じゃあ、まずはレイさんに話を聞きに行きましょうか。今日は休みですから、明日にでも」

「そうだな」

家の方角が同じ者同士で、帰路についた。


***


 翌日。俺たちはおじさんのカフェで月影の報告を待っていた。

「それにしても、上手くいくかな?」

「信じるしかないだろ」

 失敗することばかり考えていても仕方がない。粘り強く待ち続けていると、月影がカフェに入ってきた。レイと共に。

「すみませ~ん、お待たせしました~」

「???」

レイは、あたりを見渡している。彼女は本当に神谷天なのだろうか。確かにレイの容姿は整っており、神谷を彷彿とさせるが。

翻訳アプリを駆使し、レイは俺たちに問いかけてきた。

『どうしてここに連れてこられたのですか?』

 こちらも翻訳アプリを使い、伝える。

『単刀直入に訊くが、神谷天という名前に聞き覚えは?』

『ありません』

 これはハズレか? そう思った時に、おじさんがレイと月影の分のコーヒーを運んできた。しかし、レイの目の前で転んでしまいコーヒーは宙を舞い——レイに降り注いだ。

「ちょっと! 何すると⁉」

この声。聞き覚えがある。そして、声の主は間違いなくレイだ。

「レイ・ライト……お前、神谷天だな」

『何のことだかわかりません』

「言い逃れは出来ないわ。その言葉遣い、髪の色——全てが物語っているもの」

レイは、諦めたかのように目からコンタクトを取り出した。本来の彼女の目の色は、神谷と同じだった。

「これで満足?」

「やっぱりな。神谷天、今ここで勝負だ。俺が勝ったら、もう悪夢に加担するのは辞めてもらう」

「よかよ。絶対に負けんけんね。で、何の勝負?」

 流石に神谷とはいえ、女性に暴力を振るうのには抵抗があった。なので、なるべく平和的に収めたい。

「そうだな……ジェンガでどうだ?」

「ジェ、ジェンガ? まあ、別によかばってん……」

 ちなみにこのジェンガは、年末の大掃除で出てきた咲夜の所有物だ。おじさんのカフェにはテーブルゲームも揃っているので、その中に紛れている。持って帰れば良かったのに……。まあ、結果オーライか。

「負けんけんね!」

 先攻と後攻をじゃんけんで決め、勝負が始まる。俺は後攻だった。神谷が慎重にジェンガを引き抜く。初回で倒れる訳もなく、俺もジェンガを引き抜く。


勝負が動いたのは、神谷が手を滑らせた時だった。その瞬間に倒れた訳ではないが、もう塔は決壊寸前だった。緊張感が走る。俺は今まで以上に慎重にジェンガを引き抜いた。それは無事に成功し、神谷の番になる。

「ありえん……この神谷天が敗北するなんて……」

そう言いながらジェンガを引き抜いた。瞬間、崩壊していくジェンガタワー。勝負あった。

「これで、俺の勝ちだな神谷——もう悪夢には干渉しないと誓え」

「こんなことで……勝った気にならんで! でも、約束したけんしょうがなかね。もう介入はせん。これでよかと?」

 口約束だけでは不安だったが、ここはもう神谷を信じるしかない。

「ああ。もし約束を破ったら、罰金だからな」

 これで神谷は大丈夫だと、思うしかない。俺たちには神谷の他にもやることがある。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?