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第161話

 俺たちは話し合った。月見野鶯を説得するのか、倒すのか。その為にどうすれば良いか。夢に潜る当日まで話し合いは長引いた。


「では、いよいよ今日ですね。皆さん、安全には気をつけて。危ないと思ったら退避も考えてください。では、いってらっしゃい」

 目を閉じると、目の前に月見野学園高校が現れた。皆で見る夢、という感覚はよくわからなかったがそんなことに気を取られている場合ではない。

「行くぞ、確か理事長室は職員室の奥だったよな?」

「そうだ。行こう、夢野」

俺たちは夜遅くの学校に突入した。ただただ静かで、何か話していないと雰囲気に呑まれそうだ。

「不気味だね……」

「そもそも、本当に理事長は居るのかしら? 嵌められてたりしないわよね?」

 そう言われると不安になってくる。確かに、理事長が居るという保証はどこにもないのだ。

「いや、理事長は僕たちのことを監視していたはずだ。部室を使わなくなった時期から、毎晩待ち伏せていたとしても不思議ではない。だから必ず居るはずだ」

「そっか……」

階段を昇り、職員室へ歩を進める。真っ暗な職員室は、日中とは異なる入りづらさを醸し出していた。意を決して、扉を開ける。本来なら閉まっているであろう扉は、何故かすんなり開いた。これも、月見野鶯の仕業だろうか。そう考えるのが、最も正しい気はするが……。

 電気をつけると、人の一人も居ない職員室の姿があらわになった。そして、奥にちらりと見えた『理事長室』の文字。

「あそこか、行くぞ!」

「ええ。油断はしないで、固まって行きましょう」

 理事長室のドアノブをそっと回すと、「遅かったですわね。後十日は早く来ると思っていましたわ」と声を投げかけられた。透き通っていて、どれだけでも聞いていたい声。この声の主を、俺は確かに知っている。でも、そんなことはありえないしあってはならない。

「生徒会長……?」

「そうですわよ。私に用があるからここまで来たのでしょう? 生徒会長である私――月見野帷に。いえ、この名前は偽名でしたわね。この、学校の理事長である月見野鶯に何の用ですの?」

「どういうことだ……?」

 頭が混乱してきた。要は、俺たちが生徒会長だと思い込んでいた月見野帷は存在していなくて、月見野鶯の仮の姿ってことか?

「お前が、生徒会長兼理事長だったってことか?」

「だからそう言っているではありませんか——もっとも、これも不老不死研究の一環で得た力ですもの。わからなくても無理はないですわね」

 俺の目の前に立っている女性は、どう見ても俺たちと同年代だ。ぱっつんと切り揃えられた前髪に、サラサラ揺れる長い黒髪。俺が知っている生徒会長その人の姿がそこにあった。そもそも、制服だし。

「月見野帷は、存在しないってことでいいのか?」

「そうですわね——私が生徒を管理する上での仮初めの姿だった訳ですから。存在はしなかった、で正しいでしょう」

 道理で、生徒会長は悪夢を見なかった訳だ。有名人と言えるにも関わらず。

「何故、悪夢を生徒に見せていたんだ?」

「愚問ですね。とはいっても、まずは不老不死のメカニズムの説明から致しましょう。

 不老不死とは、一見プラスのエネルギーの集合体に聞こえるでしょう? 実際の不老不死は、呪いに近いものなのです。なので、必要なエネルギーは必然的に負のものになる。私は困りました。そんな強大な負のエネルギーを簡単に得られるところなんて、簡単にはありませんから。でも、私にはありましたの」

「それが……この学園ってこと⁉」

 何という女だ。見た目こそ清廉潔白そのものだが、考えていることが腹黒すぎる。

「そうです。だけれど、弊害がありました。それが、貴方たちです。こちらで貴方たちのことを少し調べさせて貰いました。高校生になってから知り合って、ここまで息の合った連携が出来ることは称賛に値します。しかし、それも今日で終わり。皆さんにも、私の実験台になって貰います。特に夢野獏、貴方には散々してやられましたからね——」

「夢野、危ない!」

 鞭が飛んできて、俺に直撃しようかという時——暁人がデコレーターで壁を作った。

「気を抜くな、目の前に居るのは最後の敵だ。どんな手を使ってくるかわからない」

「わかってる。暁人も気を抜くなよ」

 お互いアイコンタクトをし、頷き合う。

「そうでした、貴方にも苦心しました。誰から片づけましょうか。ああ、安心してください。あの時の様に、誰かを引き抜いたりはしません。全員平等に、利用させて頂きますから」

 あの時、というのは恐らくおじさん達のことだろう。あの時は氷川さんが、トワイライト・ゾーンに引き抜かれている。

「さて、まずは貴方に致しましょう。変身能力というのは厄介ですが、実戦で言えば雑魚もいいところです」

「!! ネルミ、離れないで!」

「星川さん、わかったわ」

咲夜は望月を抱き寄せ、鞭の攻撃を代わりに引き受けた。

「貴方からの方が良かったですかね、星川咲夜——確かに貴女の能力は相当厄介ですけれど……」

 鶯は、誰から仕留めるか決めあぐねているようだ。これはチャンスだ。俺たちは頷き合い、まずはデコレーターで鶯の周囲に檻を作る。そして、そのまま檻から棘を生やし、鶯を貫こうとした。

「なるほど、面白いことしますね。少しばかり、予想を超えてきました——とは言っても、私はこの程度のことでは負けません。夢を知り尽くしているのは、圧倒的に私の方なのですから」

 鶯は、扇を広げ風を起こした。作り上げた檻が破壊される。


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