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第166話

 八方塞がりだ。治療に時間がかかっているのか、中々月影は戻ってこないし。まあ、三人分癒しているのだから時間がかかるのは当たり前か。


 それにしても、夢での事故か。それなら、俺でも引き起こせるかもしれない。俺は、体力をふり絞り少しばかり油断している様に見える鶯にとびかかった。


「きゃあっ⁉」


そして、強引に能力を発動させる。最果てに行くことがないように、制御しながら鶯と俺を呑み込んでいく。




ああ、俺、ここで死ぬんだな。悪くはない人生だったかもしれない。




「何をしていますの⁉ 自分ごと呑み込んだら——貴方も死にますわよ!」


「わかってる。でも、こうでもしないとお前は存在し続けるだろ」




 鶯は黙り込んでしまった。俺も、もう息をするので精一杯だ。




「喰らうぞ、この夢——」


 この言葉を言うのも、今回で最後だ。




***




 五人同時に目が覚めた、らしい。これが、共同で見る夢ってことか。疲労感が凄い。気怠すぎて、起き上がることも出来ない。


「あの……副部長、月見野鶯はどうなったのかしら?」


 伸びをしながら、望月が問う。


「俺が喰った」


 端的にそう述べると、「そう」と素っ気ない返事があった。


「最後の敵を倒し終わった訳だが、奴らはどうするんだろうな」


 暁人が言う。確かにボスは倒したが、奴らが活動停止するとは限らない。鶯の遺志を汲んで、活動する奴が出て来てもおかしくないのだ。


「きっと、大丈夫だよ。もし新しい敵が現れても、私達が倒せばいいだけだし」


 咲夜は相変わらず危機感がない。まあ、それが咲夜のいいところか。


「それで思い出したんですけど、能力ってどうなったんでしょう? 私は戻りましたけど……」


 鶯の能力の返し方を思い出したのか、頬を赤く染め俯く月影。あれは俺にも衝撃的だった。他三人は知らないだろうが。


「もう一度寝て、確認してみましょう。能力が戻っていなければ、その時考えればいいと思うわ」


「賛成! じゃあ、寝るね」


 俺たちは再び夢の世界に足を踏み入れた。




 結果から言うと、能力は全員元通りになっていた。だが、この力を使うことはもう無いだろう。鶯の遺志を継ぐ者が現れない限りは。


「折角、能力が戻ったのに……解散するの?」


 咲夜は今にも泣きそうだ。瞳を潤ませている。


「別に、このチームを解散したところで今までの思い出がなかったことになる訳じゃない。そうだろう、夢野」


「……そうだな。これからも仲間でいような。皆、今までありがとう」


「こちらこそ、ありがとうございました! 皆さんのおかげで楽しい一年を過ごすことが出来ました」


 皆が口々に礼を述べている。重ね合っていた手を、そっと引き抜く。これからの学校生活はどうなるかな。同好会としては活動休止になるが、学年はあがり出来ることは増えていく。寂しさと期待の入り乱れた、奇妙な感情に胸を支配されていた。


「じゃあ、起きて解散しましょうか」


「おう」


 ゆっくり覚醒すると、いつも通りの光景が見えた。解散が本当になるなんて、現実味がない。明日もこうやって集まって、悪夢退治に行きそうなのに。


「それでは、本日をもって『ドリーム・イーターズ』は解散です! 本当に……本当にありがとうございました!」


 月影は泣きながら言い切った。その勢いに、思わず俺まで涙してしまった。


 皆がカフェから出て行くのを見送り、俺は咲夜に向き直る。


「その……これからもよろしくな」


「当たり前でしょ、変な獏! こちらこそよろしくね」


 おじさんは終始何も言わず、俺たちを見守ってくれていた。


「じゃあな、おじさん。俺、咲夜と一緒に帰るから」


「ああ。辛くなったらいつでも来て良いからな」


 その言葉はとても有難かった。今後も、おじさん含め俺たちは一人じゃないということの証明な気がして。

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