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第168話

 翌日、成瀬に問われた。


「月影に何か言ったのか? 彼女、今日は学校に来ているみたいだぞ」

「まあ、少し……。来たのか、良かった」


 やはり、俺の確信通りだ。月影は強い。だからこそ、部長だったんだ。

 成瀬との会話は、そこで途切れた。成瀬は月影に思うところなんてないだろうが、それでも気にしてくれていたのは嬉しい。口は少し悪いが、いい奴だ。

 着席のチャイムが聞こえたので、席に戻る。今日も一日、頑張ろう。


 昼食の時は、成瀬が居ないので咲夜と一緒に行動している。この学校は生徒数が多いので、当然カップルも多数存在する。俺が咲夜と行動しても目立つことはない。あまりにもイチャイチャしていたら流石に目立つだろうが、そんなことをする気はない。


 元部室で、くだらない話題で盛り上がりながら食べる昼食は美味しい。鶯亡き今、監視カメラに怯える必要もないというのもある。


「そういえば、月影が不登校になってたって話知ってたか?」

「え? そうなの? 知らなかった」

 初耳だったのだろう、咲夜は目を丸くしている。

「今日は来たみたいだけどな。だからもう心配いらないと思う」

「そっか、それなら良かった」

 五人集まらない部室は、やっぱり寂しい。元から静かだったが、今は余計にそう感じる。


 そんなことを考えていたら、扉が開いた。

「ミステリ研究部は、いつから二人になったわけ?」

 北条だ。最近は顔を見ることがなかったから、少し新鮮な気分になる。

「ミステリ研究部は解散したんだよ。今は俺たち二人で借りてるだけだ」

「あら、そうなの……じゃなくて、それならそうと申請しなさいよ! 帷会長が失踪してから、こっちは仕事だらけで大変だって言うのに余計な仕事増やさないで」

 北条は、帷会長が理事長と同一人物だったと知ったらどんな反応をするだろうか。驚く? 信じて貰えない? 北条の場合は恐らく後者だろう。言うつもりはないが。

「悪い悪い。じゃあ、お前に伝えたから申請しておいたってことにしてくれよ。頼んだ」

「勝手に頼まないで! 今回だけだからね!」

 成瀬といい、北条といい……今年から深く関わっている奴はツンデレ属性ばっかりだな。

「ありがとう、北条さん」

「別に礼を言われるほどのことでもないわ。ミステリ研究会のことは、私も気になってたから。いつまで経っても新しい顧問の申請もなかったし。理由が分かってすっきりしたわ」

 北条はそう言い放ち、部室を出て行った。次期生徒会長と言われている北条が、実体のない研究会のことを気がかりに思っていたのには驚いた。そんな余裕があったのか。


「北条さん、何だかんだで優しいよね」

「そうだな」

 でも、咲夜の優しさには敵わない。恥ずかしいから言わないけど。


 弁当を食べ終わり、教室に戻る。成瀬は時間ギリギリまで帰ってこないので、適当に男子たちの会話に混じる。

「お前、星川さんとはどこまで進んでんの?」

「いやー、それはちょっと言えねえな」

 大体が咲夜関連の会話になるのが、恥ずかしい。咲夜の方も女子からそういった話題を振られているのだろうか?

 午後の授業が始まるということを告げる鐘が鳴った。午後は適度に頑張ろう。 


***


 気になったので、咲夜に訊いてみることにした。

「もしかして、教室に帰った後でひやかされたりしてないか?」

「あ、もしかして獏も? まあ、大したことないよ。皆悪意があって訊いてる訳じゃないし」

 随分とあっさりした回答だったので、拍子抜けしてしまった。悪意が無いと咲夜が判断してるなら、それはそれで構わないが。俺も、男子たちから悪意を感じたことはない。むしろ、「お幸せに」ムードでいじられている。この学校の生徒は、基本的に優しいのだろう。学内で大量のカップルが誕生していても、先生たちは何も言わない。生徒もそれを理由にいじめてくることはない。いい環境だと思う。


 理事長が死亡して、バタバタしていても生徒には関係がない。月見野鶯は、自宅の部屋で心臓発作を起こし亡くなっているのを執事が発見した……らしい。らしいというのは、情報の裏付けがとれていないからそう表現するしかないのだ。新しい理事長には、鶯の妹である東川鴎が就任したが、完全にお飾りだ。やるべき仕事をわかっておらず、職員室の空気も張りつめていると伊東先生から聞いた。鴎はきっと、『トワイライト・ゾーン』のことも大して知らないのだろう。今頃、後処理に追われているのかと想像すると可哀想になってくる。


 今まで、『トワイライト・ゾーン』の残党が何かをしてくるということはなかった。しかし、学校の先生の転勤もなかったので元構成員だらけであることには変わりない。そして恐らく、鴎はその事実を知らない。知っているとしたら、彼女の息子である東川颯の方だろう。なんせ、研究所にも出没していたのだから。そういえば、颯は今何をしているのだろう。風の噂で、小学校を卒業したことだけは知っているのだが。まあ、いいか。今後関わる人物ではないだろうし。


「獏? ぼーっとしてるけど大丈夫?」

「あ、ああ。悪い。大丈夫だ」

「ならいいけど……」


 咲夜に余計な心配をかけてしまった。咲夜的には、俺たちの戦いは終わったと結論付けているらしい。『トワイライト・ゾーン』の話題も、鶯を倒した日から一切してこなくなった。暁人と連絡を取っていないから、というのも理由の一つかもしれないが——なんせ、咲夜は望月とはそれなりに仲が良かったのだから。


「なあ咲夜、たまには暁人にも連絡を取ってみないか?」

「うーん……でも、何を話題にしたらいいかわからないし。ネルミとは連絡取るけど、夜見くんは気難しいからなぁ……」

 ダブルデートの約束がある望月とは、結構頻繁に連絡をとっているらしい。確かに俺も米津とは連絡を取り合っているからな……。

 暁人が気難しいというのは、よくわかる。望月は咲夜に連絡をよこしているあたり、情があるのだろうというのはわかるのだが。暁人はあの日以降、一つも連絡をよこしてこない。本当は、仲間でいることが嫌だったのだろうか? 色々考えこんでしまう。

「まあ、考え込んでも仕方ねーよ。一回くらい試しに連絡入れてみようぜ」

「わかった、夜見くんも何か変わったかもしれないし——久しぶりに話したい気持ちは私にもあるもんね」

 俺はスマホを取り出し、暁人にメッセージを入れる。

『よう、久しぶり。何か変わったことはあったか?』

 ドキドキしながら返事を待つが、それどころか既読マークすらつかない。

「……今日は帰るか」

「だね」


 俺たちはお互いの家に帰った。

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