暁人から連絡があったのは、夕食をとった後自室のベッドに寝転んでいる最中のことだった。
『気がつかなくてすまなかった。変わったことか。僕は最近、放課後……部活の後に奈切先輩にサッカーの練習に付き合って貰っているな。今日もそれでメッセージの確認が遅れたんだ』
『そうか。お前が元気ならそれでいいんだ。奈切先輩によろしく』
即座に返信を打ち込み、送信する。暁人は暁人で、頑張っているみたいだ。だとしたら、こちらから無理に話しに行くことはない。
咲夜にもこのことを伝えておこう。電話をかけると、数コール後に声が聞こえた。
『もしもし』
いつも通りの咲夜の声だ。
「もしもし、暁人から連絡があったぞ」
『夜見くんから? どんな内容だったの?』
「奈切先輩とサッカーの練習してるんだと」
『そっか。夜見くんは夜見くんの道を歩んでるんだね』
仲間が巣立っていくのは嬉しいはずなのに、応援したいはずなのに。なのに、どうして寂しいという気持ちが勝るのだろう。泣くとまではいかないが、胸に穴が開いた気分だ。
『獏―? 聞いてる?』
「ああ、悪い。聞いてる聞いてる。俺たちも前に進まなきゃな」
『だね! とりあえず、ネルミたちとのデートの計画考えなきゃ』
「そうだな」
『グループに後で考えたプラン貼っとくから、見ておいてね』
「わかった。じゃあな」
通話を切る。とりあえず、今は目先の未来に集中しよう。暁人の邪魔をしてはいけない。
多分、こうして皆が自分の道を歩み始める中で最後に取り残されるのは俺だ。咲夜にはデザイナーという夢があるし、望月も最近劇団に所属したと聞いたし。月影もいずれ、自分の道を歩むのだろう。一方俺ときたら、夢という夢もなく何となく大学に行こう程度にしか思っていない。ドリーム・イーターズではよくリーダーが務まったものだ。月影の様な責任感の強さもなく、ただおじさんから受け継いだ強大な能力でリーダーに指名されただけだ。つまり、俺にはそれしかない。そして悪夢退治も終わった今、残ったものと言えば……ここまで考えて虚しくなってきたのでやめた。考えても仕方のないことだ。ただ、将来への漠然とした不安は消えない。俺は何者かになれるのだろうか? きっと他のメンバーはなれるだろう。でも、俺は。やめよう、何故夜はこんなにも人を不安にさせるのだろう。五人でいた時は、何も思わなかったのに。他の皆は、夜を平穏に過ごせているのだろうか。
——もう、寝てしまおう。寝るにはだいぶ早かったが、目を閉じ強引に意識をシャットダウンした。
***
その夜見た夢を、俺は皆に共有せずにはいられなかった。歩みを止めてもらわなきゃ、解決できない問題が出来たからだ。
「ごきげんよう」
月見野鶯が、何故か俺の夢に出てきたのだ。
「どうして私がここにいるのか、不思議そうな顔をしていますわね——夢野獏。私も事態の把握にはだいぶ時間がかかりましたわ。残りのお仲間を呼んできたら、お話しましょう」
こう言われては仕方がない。飛び起きた俺は、汗ばんだ手で皆にメッセージを入れた。
『今日、話があるから部室に集まってくれないか?』
久しぶりにこのグループで発言したが、予想より早く皆から反応があった。皆、不穏な気配を察知したのだろうか。
翌日。俺たちは久しぶりに顔を合わせた。俺と咲夜しか使っていなかった部室で。
「……で、話って言うのは何なんだ。夢野」
暁人は相変わらず不愛想だ。でも、変わっていないことに安心感を覚えた俺もいる。
「ああ、落ち着いて聞いて欲しいんだけど……俺の夢に月見野鶯が現れた」
「鶯が? 何で?」
不思議だ、とでも言いたげな声色の咲夜。
「わからない。本人に、仲間にこのことを伝えたら真相を伝えるって言われただけで……俺も混乱してるんだ」
「そうなのね。でも、理事長は心臓発作で亡くなったはずじゃない」
望月の言うことは、何一つ間違っていない。鶯は心臓発作で死んだ。この事実があるからこそ、今回の夢は不可解なのだ。
「とりあえず、今夜は月谷ネットカフェに集まってくれないか。時間はいつもの時間に。よろしく」
「わかった」
全員の了承がとれたところで、一度解散となった。