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第171話

 深夜零時の月谷ネットカフェに、久しぶりに五人集った。

「で、夢野。月見野鶯が夢に現れたというのは、本当なのか」

 暁人が訝し気にこちらを見つめながら、問う。

「本当だ。今から皆を俺の夢に誘うから、真実を確かめてくれ」

「わかったわ」

 俺は皆より先に横になると、目を閉じ意識をシャットダウンさせる。


「皆には話しましたの? 夢野獏」

 足を組んで椅子に座っている鶯は、やはり実年齢よりもはるかに若く見える。十代と言っても通用するだろう。着ているのも、学校の制服だし。

「ああ。多分もうすぐこの夢に来るはずだ」

「そうですか」

 鶯は神妙な面持ちで、それだけ言うと口を結んだ。


 皆が夢に入ってきたのは、それから体感で数分ほど経った頃だった。

「ごめん、夢を見つけるまでにちょっと手間取って遅れちゃった」

 謝る咲夜は、鶯を見て目を丸くした。

「それにしても、本当に居たんだ……これってどういうことなの?」

 鶯の方は、表情一つ変えず

「星川咲夜、久しぶりですわね。順を追って説明するので、急かさないでください。とりあえず……お座りになっては? この夢で私はどうこうできる力を持っていませんので、夜見暁人にデコレーターで椅子を用意して貰うことにしましょう」

「勝手に決めるな。貴様がこの夢で無力だという証拠もない」

 暁人の言う通りだ。鶯が本当に無力なのか、見極められない。能力の使用も慎重になった方がいいだろう。

「だってここは、あくまで夢野獏の夢。私の力は、彼に食べられた時点で消失していますわ。能力がなければ、この夢で暴れるのは非常に難しい——ましてや他人の夢の中ですもの」

 確かに、能力なしで他人の夢の中で暴れるのは難しいだろう。それは理解できる。暁人も完全に信用した訳ではなさそうだが、「仕方ない。いいだろう」と椅子を出現させた。五人分の椅子にそれぞれ腰掛ける。学校の椅子と座り心地が一緒だ。

「とりあえず、これで話をしやすくなりましたわ。立たせたままで話をしたら、私が威圧感を感じてしまいますもの」

「……そう。本題に入ってくれないかしら。私たちにある時間は限られているから」

 望月が語気を強めて、先を急がせる。

「まあ、生き急がなくてもいいではないですか。望月ネルミ。しかし、ここにあなた方を集めたのも私。お話致しましょう、何故私がここにいるのか」

 鶯は息を吸い、吐き出した。そして再び、口を開く。

「私がここに、死んだのに留まっているのは……夢野獏に夢を『食べられた』からですわ。あなた方が退出した後、私と夢野獏は一対一の対決をしましたの。その時に、体と切り離していた意識だけ、夢ごと食べられ——夢野獏の夢と私が同化してしまった。と、いう訳です」

 言っている意味が、いまいちよく理解できない。ちらりと周りに目をやるが、誰もピンと来ている人はいなさそうだ。

「俺がお前の夢を喰ったから、意識だけ俺の中に入り込んだってことか?」

 鶯の言ったことを要約すると、確かにこうなる……こうなるのだが。そう言われて納得できる人間など早々居ないだろう。つまり、今の鶯は俺の意識と共存しているのだから。

「そうですわよ、私としても非常に困ったことになっていますの。体はもうこの世にありませんし、夢野獏は私の計画を阻止した以上言うことをきいてくれるとは思えませんし。私の理想が砕けて、結構ショックですのよ?」

「知らねえよ」

 鶯のことを可哀想だとは、どうしても思えない。鶯のワンマンで計画が進んでいたのが、俺たちにとっては吉と出ている。それだけだ。

「嘆くなら、東川鴎にでも言っておけば良かったんじゃないか?」

「夜見暁人、それは無茶ですわ。颯は懐いてますけど、鴎とはそんなに仲が良くないのです。この姿のまま歳だけ重ねた結果、気味悪がられるようになってしまって……」

「自業自得よ。人間、老いていくのが当たり前だもの。人類の平和をどうとか言っていたのに、自分は妹と仲良く出来ないなんて皮肉なものね」

 望月も言うようになったな。米津と付き合いだしてから、望月は感情表現が明らかに豊かになった。喜ばしいことだ。

「……そう、ですわね。私のせいですわ。勿論、理解のない鴎も大概ですけれど」

「お前、そういうところは喰われても変わらないんだな……」

 鶯の他責は今に始まったことではないが、うんざりしてしまう。

「私があなた方を集めたのには、理由があるのです。私をこの夢から、解放してくれませんこと?」


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