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第173話

 翌日。あれから一睡も出来なかったので少し寝不足気味だが、一応授業は乗り切った。成瀬に「ふらふらしてるけど、大丈夫か?」と要らない心配をかけてしまったことを反省しながら、咲夜と帰宅する。


「今日の夜、おじさんのカフェにまた集合するんだよね?」

「ああ」

「夜見くんとまくらちゃんとは、これで会うのが最後になるかもしれないね」

 咲夜は表情を曇らせた。一年間連れ添った仲間だ、寂しくなる気持ちもわかる。

「そうだな。でも、皆が自分の道に進んでいるなら応援しなきゃな」

「そうだね……」

 咲夜には相変わらず元気がない。

「大丈夫だ、連絡先は知ってるからいつでも話そうと思えば話せるし。な?」

 以前の様な距離感ではなくとも、俺たちは仲間だ。咲夜は一応それで納得したのか「そうだね」と返してきた。

「とりあえず、今日は会えるし。これからのことは、今考えなくても良いんじゃないか?」

「そうだね……」

 これで少しでも、咲夜の気持ちが楽になれば良いのだが。咲夜はそれでも思うところがあるのか、普段より口数が少なかった。

 俺だって、思うところが無いわけではない。月影にも暁人にも、情がある。離れるのは俺も嫌だ。だが、未来に進んでいるなら応援しなければという想いもある。非常に難しい。

「じゃあ、また後でね」

「おう」

咲夜が彼女の家に戻るのを見届け、俺も家に入った。


***


 深夜零時に、再び俺たちは集まった。

「夢野くん、今夜は眠れそうですか?」

「ああ。あの後一睡もしてないからな。今からでも眠れそうなくらいだ」

 月影の問いに、朦朧とし始めた意識の中答える。

「じゃあ、俺は先に寝てるから。後から入ってきてくれ」

「わかった」

 奥の部屋で、横になる。かなり眠かったので、すぐに夢の世界に入れた。


「鶯、居るのか?」

 返事はない。昨日まで確かにあった気配もない。どうやら、昨日の作戦は成功したみたいだ。

「……鶯、居ないみたいだね」

 咲夜の声が聞こえた。続いて、皆の声も。

「無事に追い払えたみたいね」

「そうだな。夢野も安心しているんじゃないか?」

 確かに暁人の言う通り、安心はしている。だが、こんなにあっさり鶯が居なくなるものだろうか……という疑問も残る。あんなに生に固執していたのに。力が無くなったからと言われればそれまでだが。

「何はともあれ、確認完了ですね。出ましょうか」

「うん。獏も起こすから安心してね」

 月影たちは先に出て行った。しばらくその場でこの状況について考えることにした。


 皆は、もう鶯が亡くなったと認識している。身体だけでなく、精神も。実際、ここに居ないのだからそうなのだろう。だが、何か引っかかる。幽霊を信じている訳ではないが、鶯はまださ迷っている気がするのだ。気のせいだと信じたいが……。

 そこまで考えて、意識が現実世界に引っぱられた。


「おはよ、獏」

 目の前にあったのは、咲夜の顔。

「おはよう……」

 正直まだ眠いので、欠伸を押し殺しながら返事する。それでも眠いことは伝わってしまったのか、咲夜は笑っていた。

「本当に寝不足だったんだね」

「うるせえな、仕方ないだろ。今日ここで眠れなかったら、また皆を付き合わせることになるし」

 心外だ、とでも言いたげに月影は口を開いた。

「私は構いませんけど。仲間が大変な目に遭っていたら、助けるのは当たり前です」

「僕も、そんな薄情に見えるのか? まあ、貴様がどう思っていようが自由だが……」

 暁人も月影に便乗してきた。二人とも、俺が思っていた以上に仲間意識が強かった様だ。有難い。

「悪かったって。でも、暁人とか奈切先輩と練習してるんだろ? 今まで連絡なかったから忙しいのかと……」

「それは貴様が困っていなさそうだったからだ。こういうのは慣れないが……僕たちは友人だろう。友達を見捨てるほど、僕は落ちぶれてもいない」

 暁人は、俺のことを信頼してくれていたらしい。だとしたら、俺も暁人のことをもっと信頼するべきだ。今までもしていなかった訳ではないけれど……。言葉にしなければわからないことも、きっとある。

「そうだな。俺もお前のこと、友達としていつも気にかけてるからな」

「そうか」

 短い言葉だったが、彼が満足したのが伝わってくる。普段より声が柔らかい。

「あら、もう二時ね。明日も学校だし、そろそろ解散かしら」

 望月の指摘で、一気に現実に引き戻される。ここで解散してしまえば、暁人や月影との距離が開いてしまう気がした。それでも、やはり前に進まなくては。意を決して、俺は口を開く。

「今日は本当にありがとう。じゃあ、解散!」

 この言葉で、晴れてドリーム・イーターズは解散となった。


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