翌日。あれから一睡も出来なかったので少し寝不足気味だが、一応授業は乗り切った。成瀬に「ふらふらしてるけど、大丈夫か?」と要らない心配をかけてしまったことを反省しながら、咲夜と帰宅する。
「今日の夜、おじさんのカフェにまた集合するんだよね?」
「ああ」
「夜見くんとまくらちゃんとは、これで会うのが最後になるかもしれないね」
咲夜は表情を曇らせた。一年間連れ添った仲間だ、寂しくなる気持ちもわかる。
「そうだな。でも、皆が自分の道に進んでいるなら応援しなきゃな」
「そうだね……」
咲夜には相変わらず元気がない。
「大丈夫だ、連絡先は知ってるからいつでも話そうと思えば話せるし。な?」
以前の様な距離感ではなくとも、俺たちは仲間だ。咲夜は一応それで納得したのか「そうだね」と返してきた。
「とりあえず、今日は会えるし。これからのことは、今考えなくても良いんじゃないか?」
「そうだね……」
これで少しでも、咲夜の気持ちが楽になれば良いのだが。咲夜はそれでも思うところがあるのか、普段より口数が少なかった。
俺だって、思うところが無いわけではない。月影にも暁人にも、情がある。離れるのは俺も嫌だ。だが、未来に進んでいるなら応援しなければという想いもある。非常に難しい。
「じゃあ、また後でね」
「おう」
咲夜が彼女の家に戻るのを見届け、俺も家に入った。
***
深夜零時に、再び俺たちは集まった。
「夢野くん、今夜は眠れそうですか?」
「ああ。あの後一睡もしてないからな。今からでも眠れそうなくらいだ」
月影の問いに、朦朧とし始めた意識の中答える。
「じゃあ、俺は先に寝てるから。後から入ってきてくれ」
「わかった」
奥の部屋で、横になる。かなり眠かったので、すぐに夢の世界に入れた。
「鶯、居るのか?」
返事はない。昨日まで確かにあった気配もない。どうやら、昨日の作戦は成功したみたいだ。
「……鶯、居ないみたいだね」
咲夜の声が聞こえた。続いて、皆の声も。
「無事に追い払えたみたいね」
「そうだな。夢野も安心しているんじゃないか?」
確かに暁人の言う通り、安心はしている。だが、こんなにあっさり鶯が居なくなるものだろうか……という疑問も残る。あんなに生に固執していたのに。力が無くなったからと言われればそれまでだが。
「何はともあれ、確認完了ですね。出ましょうか」
「うん。獏も起こすから安心してね」
月影たちは先に出て行った。しばらくその場でこの状況について考えることにした。
皆は、もう鶯が亡くなったと認識している。身体だけでなく、精神も。実際、ここに居ないのだからそうなのだろう。だが、何か引っかかる。幽霊を信じている訳ではないが、鶯はまださ迷っている気がするのだ。気のせいだと信じたいが……。
そこまで考えて、意識が現実世界に引っぱられた。
「おはよ、獏」
目の前にあったのは、咲夜の顔。
「おはよう……」
正直まだ眠いので、欠伸を押し殺しながら返事する。それでも眠いことは伝わってしまったのか、咲夜は笑っていた。
「本当に寝不足だったんだね」
「うるせえな、仕方ないだろ。今日ここで眠れなかったら、また皆を付き合わせることになるし」
心外だ、とでも言いたげに月影は口を開いた。
「私は構いませんけど。仲間が大変な目に遭っていたら、助けるのは当たり前です」
「僕も、そんな薄情に見えるのか? まあ、貴様がどう思っていようが自由だが……」
暁人も月影に便乗してきた。二人とも、俺が思っていた以上に仲間意識が強かった様だ。有難い。
「悪かったって。でも、暁人とか奈切先輩と練習してるんだろ? 今まで連絡なかったから忙しいのかと……」
「それは貴様が困っていなさそうだったからだ。こういうのは慣れないが……僕たちは友人だろう。友達を見捨てるほど、僕は落ちぶれてもいない」
暁人は、俺のことを信頼してくれていたらしい。だとしたら、俺も暁人のことをもっと信頼するべきだ。今までもしていなかった訳ではないけれど……。言葉にしなければわからないことも、きっとある。
「そうだな。俺もお前のこと、友達としていつも気にかけてるからな」
「そうか」
短い言葉だったが、彼が満足したのが伝わってくる。普段より声が柔らかい。
「あら、もう二時ね。明日も学校だし、そろそろ解散かしら」
望月の指摘で、一気に現実に引き戻される。ここで解散してしまえば、暁人や月影との距離が開いてしまう気がした。それでも、やはり前に進まなくては。意を決して、俺は口を開く。
「今日は本当にありがとう。じゃあ、
この言葉で、晴れてドリーム・イーターズは解散となった。