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第174話

「獏」

 鶯問題が過去になりかけていた頃、おじさんに呼び止められた。

「どうしたんだよ?」

「あー、鶯のことだ。獏は、本当にこれで終わりだと思うか?」

 おじさんの表情は、いつもよりずっと険しい。何か思うところがあるのだろう。

「……鶯は俺が、いや、俺の能力か……が吐き出して、この世には留まっていないはずだろ? 終わったんじゃないのか?」

「そうなんだが……どうも本当に終わったようには思えなくてな。理事長が鴎に変わったとはいえ、あの学校には相変わらず奴らの残党が居るわけだろう。それをどうにかしない限り、この問題は終わらない気がしてな……」

 確かに、おじさんの言う通りだ。先生は誰一人として辞めたものが居ない。つまり、トワイライト・ゾーンはトップが居ないだけなのだ。そのうち、もしかしたら今から密かに活動を再開していてもおかしくない。

「でも、どうするんだ? 悪夢を見ている人間が居ないと、俺たちは干渉できないぞ」

「そうなんだよな……。現在目立った活動をしていないから、実際に再起を図るのかも不明だ。だが、鶯のことだ。自分が死ぬことを予期して誰かに組織のその後を託しているかもしれない。俺は学校に行ける年齢じゃないから、獏。こっそり探れないか?」

 おじさんは無茶を言っている。俺はドリーム・イーターズのリーダーだったから、間違いなく奴らから目をつけられているはずだ。それは、咲夜たち他のメンバーも同じ。変に探りを入れたら、返り討ちにあう可能性もある。それでも。

「わかった。出来ることはやってみる。でも、あんまり期待はしないでくれよな」

「ああ。頼んだぞ」

 結局聞き入れてしまうあたり、俺はお人好しなのだろう。まあ、おじさんには散々世話になってるし。これくらいは聞いてもいいだろう。


***


 俺一人でどうにか出来る問題ではないので、まだ解散していなかったグループチャットにメッセージを打ちこむ。

『おじさんから、もしかしたら奴らが復活するかもしれないと言われたからこっそり探りを入れられないか?』

 返事はすぐ届いた。

『探りを入れるって……どうやって?』

『それもあるし、私たちは警戒されているんじゃないかしら。相当難しいと思うわ』

 望月は、俺と同じ懸念を抱いているようだ。当たり前か。暁人は恐らく放課後練でまだ奈切先輩とサッカーをしているはずだからともかく、月影も何か始めたのか返事がない。

『そうだな……暁人と月影を待つか』

 二人から了解のスタンプが送られてきたので、一度スマホの画面を閉じた。


『僕が考えるに、先生から探りを入れる必要はないだろう。生徒会とか風紀委員会とか、先生と近いところから情報を収集するのはどうだろうか。星川は風紀委員だし、少しはやりやすいんじゃないか?』

 暁人からの返事があったのは、夕飯を食べ終え少し横になろうと思った時だった。確かに、それなら咲夜はやりやすいだろう。生徒会と言えば、北条が居るけど……彼女は俺たちの真の姿を知らない。今更話しても、信じて貰えないだろう。となると、咲夜頼りになるのか。出来れば一人だけに負担がかかるのは避けたいが……。

『風紀委員関連なら、私に出来ることはやってみるよ!』

 咲夜の返事はポジティブなものだった。だとすれば、俺はサポートするだけだ。咲夜は一度決めたらやるタイプで、少し背負いすぎるところがあるからよく見ておかなければ。

『伊東先生に聞くのも良いと思います! 少しは事情をわかっているはずですし、夢野くんの担任でしたよね?』

 月影からもメッセージが届いた。確かに、伊東先生には世話になった。学校の用務員として働くことになった時雨からも情報は聞き出せそうだ。

『そうだな。明日から俺も探りを入れてみるよ』

『私たちもサポートするので、何かあったら遠慮なく言ってくださいね!』

 頼もしい仲間だ。明日からは、また頑張る日々が始まる。気合を入れていかなきゃな。


***


 翌日。咲夜は委員会の仕事を頑張ると早めに学校に行ったので、一人で考え事をしながら道を歩くことにした。

 伊東先生に訊くとして、どうやって訊こうか。伊東先生より、時雨に訊いた方が早いだろうか。だが、用務員である時雨に用事なんて確実に怪しまれるだろう。どうしたものか。

「また考え事?」

「うおっ⁉」

 振り返ると、米津が立っていた。心なしか、少し背が伸びた気がする。目線が以前よりも高くなっている様に見えた。

「そんなに驚かなくても……よっぽど考え込んでたんだね。僕で良ければ相談に乗るけど」

「悪い悪い、そんなに大した話じゃないから。ほら、春ってぼーっとするだろ」

 どんな言い訳だ、と自分にツッコミを入れてしまう。米津は釈然としない表情で「そうかもしれないけど……」とだけ呟いた。

「そういえば、今度星川さんと君、望月さんと僕で遊びに行くでしょ。みなとみらいに何時だっけ」

「そういえば決めてなかったな……後で予定を調整しよう」

 考え事は後回しにした。米津に余計な心配をさせる訳にはいかない。他愛のない話をしながら、学校に向かった。


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