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第176話

「鶯理事長から何も聞いていませんかって……鴎理事長にトワイライト・ゾーンの何かを背負わせようとしてるってこと?」

 咲夜がそう呟く。暁人がそれに同調する様にこう返した。

「そうだろうな。新海先生のような残党はまだ、現実を受け入れられていないのだろう。鶯が言っていた通り、冷え切った姉妹仲だ。残党は鴎理事長のことを好きでないというのは、とても納得がいく。用務員というのは、清水時雨のことか? だとしたら、それにも納得がいくが」

「うん、時雨のこと。それにしても、夜見くん凄いね。そんなに考えられるなんて」

 先生は感心した様子で暁人を見た。暁人は確かに基本的には冷静で、チームの頭脳だ。

「別に、そんなことありませんよ。与えられた情報から推測しただけです」

 感心されるほどのことではない、と言いたげだ。実際、暁人からしたら普通のことなのだろう。

「やっぱり、残党が居るのね。ということは、まだ私たちと彼らの戦いは終わっていないということ……」

 望月は溜め息をついた。しかし、戦いが終わっていなかったとしても今は悪夢を見ている生徒がいない。いない以上、こちらから仕掛けるのは不可能だろう。

「戦い……確かに、話してくれたよね。僕にも協力できることがあったら教えて、出来る限りのことはするよ。君たちには助けてもらったから」

 鶯の居場所の件で、チャラになったと思っていたが案外そんなことはないらしい。しかし、現状で出来ることはない。

「それじゃあ、職員室の動向を気にしておいてくれますか。何かあったらこのグループに送ってください。連絡先の交換って出来ますか?」

「うん、これ僕のIDだから。招待とかはそっちでやってくれる?」

 先生は画面に自分のIDを表示させた。検索機能で先生を友だちに追加し、ドリーム・イーターズのグループに招待する。先生はスマホを弄り、感謝の意を伝えるスタンプを送信してきた。

「……相談ってこれだけ?」

 先生はスマホの画面を暗くし、俺たちを見据える。

「はい、ありがとうございました」

 礼を言うと、先生は立ち上がった。

「わかった。皆、あんまり無理はしないでね。あくまでも優先するべきなのは将来の進路の実現、学業なんだから。じゃあ、また学校で」

 珍しく教師らしいことを言う。先生はそのまま扉の外へ出て行った。

「あれ、お帰りですか。今コーヒー淹れたばっかりなのに」

 タイミングが悪く、おじさんと入れ違ったみたいだ。

「すみません、月谷さん。またお邪魔することがあるかもしれないので、その時にでも」

「そうですか。お気をつけて、雨が降りそうですから」

「はい、ありがとうございます」

 先生の足音が遠ざかるのと、おじさんが部屋に入ってきたのは同時だった。

「獏、コーヒーだ。先生の分も淹れてしまったから、一緒に飲んでくれ」

 目の前に、二つのマグカップが置かれる。

「……で、俺は話を聞いていないから色々と説明して欲しい。どんな話をした?」

 コーヒーを一口飲んでから、おじさんに説明した。トワイライト・ゾーンの残党がほぼ確実に存在すること。鴎に「鶯から何か聞いていないか」と詰め寄った先生がいること。おじさんは神妙な面持ちで何かを考え込んでいる。

「……やっぱり、鶯が居なくなっただけでは終わらないか。昔から、世話の焼ける女だ……」

「昔から?」

 そういえば、おじさんは鶯と付き合っていたんだっけか。

「ああ。折角だから、少し昔話でもするか。あれは、俺たちが高校生になったばかりの頃だった」

 おじさんは、目を細めて語り出した。


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