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第187話

 月影と咲夜を人混みから発見するのに、そう時間はかからなかった。

「まくらちゃん、久しぶり~! 元気にしてた?」

 学園のアイドル、長戸路愛に捕まっていたからだ。月影は、俺を見るなり助けて欲しいとアイコンタクトをしてきた。

「長戸路、月影を離してやってくれ」

「あ、ごめんね~。つい嬉しくなっちゃって」

 長戸路は、月影を地面におろした。月影は息を吸って挨拶を始めた。

「長戸路さん、お元気そうで良かったです。千葉くんとはまだお付き合いを?」

 長戸路は笑顔で答える。

「うん、まだ付き合ってるよー! それがどうかした?」

「いえ、少し近況を訊こうと思って。お幸せに」

「ありがとう! 皆も卒業おめでとう!」

 ギャラリーの視線が、長戸路から俺たちに移った。居心地が悪いので、さっさと退散しよう。

「ああ、お前もな。卒業おめでとう、俺たちはこれで」

 半ば逃げるようにその場を後にした。次は誰のところへ行こうか。


「そうだ、伊達はどうしてるんだろうな。行ってみないか?」

「良いですね! 伊達さんとも最近話していませんし」

「私も、姿は見てるんだけどね。卒業式も改造制服だったなぁ」

 彼女は相変わらずのようだ。卒業式くらい普通の制服を着ればいいのに。今言ったところでもう遅いが。

「改造制服なら、すぐ見つけられそうだな」

「そうだね」

 しかし、居そうな場所が見当つかない。伊達は基本的に友達という存在がいないので、もう帰ってしまったかもしれないな。

「……あ、待って! あの人、伊達さんじゃない?」

 咲夜が指したのは、確かに改造制服を着た女子生徒だった。栗色の髪をポニーテールにしていたので、伊達で間違いなさそうだ。

「でも、校舎裏に何の用なんだ?」

「ちょっと追いかけてみましょう、折角ですし」

 出来る限り気配を消し、伊達を追いかける。校舎裏には、長身の男子生徒が立っていた。

「あ、暁人⁉」

「しっ! これってもしかしてさ……」

「告白じゃないですか? 見届けましょう!」

 確かに、伊達は暁人に好意を持っているのだろう。高一のバレンタインだかホワイトデーだか、どちらか忘れたがチョコも渡してたし。俺経由でだったけど。その想いをずっと抱き続けていたのなら、相当一途だ。まあでも、そういう奴か。


「なあ、マジメ君……いや、夜見。時間は大丈夫か?」

 始まった。暁人の方は表情を変えず、平然としている。

「ああ。少しなら大丈夫だが……どうかしたか」

 伊達は耳まで真っ赤にして、何故か眼帯を外した。

「本当に、鈍いのは変わらないんだな……。一回しか言わないから、ちゃんと聞けよ! お前のことが、好きなんだよ!」

 言った! 暁人相手にそれを言えた伊達は称賛に値するだろう。俺が伊達なら、暁人が怖いし言えない可能性が高い。暁人の方は、まだ平然とした表情で

「そうか、それで?」

と問いかけている。いや、そこは察しろよ。何でそこまで伊達に言わせるんだよ、やっぱり鈍いのか? 伊達はめげずに言葉を紡ぐ。

「それで、って……付き合いたいんだよ! 駄目……か?」

 暁人は、表情はそのままで眼鏡をクイッとあげた。これは機嫌がいい証拠だ。前向きな返事が期待できるかもしれない。

「そんなことは一言も言ってないだろう。数回デートした仲だ、思うところはある。だが……結論はすぐに出せない。連絡先は教えてあったな、そのうち連絡する。それでいいか?」

 伊達の表情が明るくなった。内心では答えがわかっているのだろう。

「し、しょうがねーな! アタシは待てるけど、他の奴にそういう態度とったら嫌われるからな!」

「好かれようとは思っていない。僕はもう帰る」

 暁人がこちらに向かってくる。隠れようとしたが、その前に見つかってしまった。

「……夢野、星川……それに月影。何をしていたんだ、こんなところで」

 明らかに訝しんでいる。仕方のないことだが。正直に言って許されるとも思えない。何とか誤魔化そう。咲夜と月影にアイコンタクトを送る。

「あ、ちょっと夢の主さん達を探している間に……その……」

「ちょっと校舎裏に迷いこんじゃったー、みたいな?」

 二人とも、誤魔化すのが下手すぎる。心の中で溜め息をつくと、暁人も呆れた様子で

「伊達のことを探していたのか?」

 と明らかに答えが分かっている質問を投げかけてきた。これはもう、誤魔化す方が悪手だろう。

「そうだ、伊達を追いかけていったら暁人もいた……みたいな」

「見られていた訳か。まあ、仕方がないな。伊達は多分、帰ったと思うぞ」

 彼女のいなくなった校舎裏を見つめながら、暁人は言う。

「追いかけるなら三人でやってくれ。僕は行かない」

「わかったって。卒業おめでとう! 暁人」

「夢野もな。僕はこれで」

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