その後、なんとなく気まずい感じだったけどそう思っていたのは私だけみたいで、湊君は至って普通だった。
こういうイベントごとの時は偶然の再会ってあるわよね。それは仕方ないと思うけれど、湊君、本当に大丈夫なのかな。
「山の中は寒いね」
紅葉を見上げて私が言うと、湊君が答える。
「そうだね。もうすぐ十一月だし、冬はすぐにやってきちゃうね」
「冬かぁ。クリスマスにお正月があるね。その時は引きこもりの準備をしないと」
人が多い日は絶対に外出ない、って決めているから、クリスマスも年末年始も家にいるつもりだ。
すると湊君は笑って言った。
「あぁ、灯里ちゃんはそうだよね。去年まではクリスマスってホテルに泊まっていたけど、今年は俺も引きこもってようかな」
あ、やっぱりそうなんだ。ですよね、知ってた。
「もしかして毎年ホテルに泊まってたりしてた?」
「うん。その方が女の子って喜ぶでしょ? って思っていたし。実際喜んでいたから。まあ、どの人も二度目はないけど」
なんて答える。わかっていたとはいえ、なんだかなぁ、って思ってしまう。
いったいこの人、何人とそういうことしてきたんだろう。そしてそのことを何とも思っていないのが不思議すぎるのよ。
「そ、そうなんだ。ねえ、湊君はなんでそんなに女性と関係もってきたの?」
「別に、求められたからだよ」
「それは前にも聞いたけど、求められたからってそんな何人もと寝たりするの?」
長く疑問を抱いてきたことをぶつけると、湊君は小さく首を傾げた。
「うーん……そこまで考えたことないな。何でだろうな」
と、顎に手を当てて考え込み始めてしまう。
もしかしてそんな深い理由はないのかな。本人的には本当に求められたから答えていただけ、なのかな。
いや、充分おかしいと思うけれど。
彼はしばらく考え込んだ後こちらを見て、微笑み言った。
「今もけっこう誘われるけどそんな気持ちにはならないし、もう忘れちゃったよ」
「……あ、誘われるんだ」
その答えに思わず苦笑すると、湊君は頷いた。
「うん、けっこうしつこくメールきて。仕事用のメアドは変えるわけにもいかないからブロックしても何度も何度もくるんだよねー」
と言って、彼はにこやかに笑う。
それはストーカーでは。私、同じ目に何度もあってきたんだけど湊君は気にしている様子がない。
「だから今はブロックするのやめて、迷惑メールに割り振られるようにしているけれど」
「……大丈夫なのそれ」
私の頭の中に、過去のいろんなことがよみがえってくる。
しつこいメール、電話、家を見張られて手紙が届いて、それに……
あぁ、思い出しただけでも怖い。
思わず手が伸びて、私は湊君の腕をつかんだ。
「大丈夫だよ。俺は外に出ないし。たぶん、心配すると思ったから話さなかったんだ」
心配するのは当たり前ですよね。だって、私、それで色んな目にあってきたし。
「だから大丈夫だよ、俺は。今は目の前のことで精いっぱいだし」
そう答えて、彼は腕を掴む私の手に自分の手を重ねた。
「そろそろ行こうか。夕飯、どこかで食べて帰ろう」
言われて私は湊君から手を離してスマホをだし、時間を確認する。
時刻は七時を過ぎていた。
いつの間にか二時間も経っていたのね。トン汁しか食べていないしお腹が空いていることに気が付く。
「そうね。帰ろうか」
私が答えると、湊君がそっと、手を差し出してくる。
「嫌じゃなかったら、手、繋いでいく?」
恥ずかしげに言われ、私は思わずその手と湊君の顔を交互に見てしまう。
なんで何人もの女性と関係もってきた人が、こんなことで恥ずかしがるのよ。
私は手を伸ばし、笑って頷きその手を掴んだ。
「うん。手を繋いでいたらこれだけ人がいてもはぐれないもんね」
「うん、そうだね」
互いに手袋をしていないから、手の温かさがそのまま伝わってくる。
その時ひゅうっと風が吹き、紅葉が舞った。
あたりの人たちはみんな顔を上げ、スマホを取り出して写真を撮っていく。
夏の花火に秋の紅葉。
季節の移ろいをこんなに感じたのは学生の時以来だな。
冬はイルミネーションで春は桜かな。まあ、見にいくかどうかは別問題だけど。だって、人が多いから。
駐車場で車に乗り、公園を後にした。