夕食のあとお風呂に入り、私はいつものようにリビングでお水を飲む。
明日、イベントがあるからだろうか、湊君は作業をしていなくて自室にこもっているみたいだった。だからリビングは普段と違って静かで、暗い。
湊君、ご飯を食べて片づけをした後は普通に見えたけど、大丈夫かな。
人前嫌いだし、乗り気じゃないイベントだから明日、大丈夫か少し心配になる。
うーん、気になるなら見に行けばいいよね。
そう思って私はコップを片付けた後、リビングを出て湊君の部屋の前に立つ。
私はここに引っ越してから一度もこの部屋に入ったことがない。
なのでちょっと緊張するのよね。
大きく息を吸い、吐いてから私はドアを叩いた。
「湊君?」
声をかけると、中からがたがたという音のあと足音が聞こえてくる。
何だろう、今の音。何かを隠しているような感じがするけど気のせいだろうか、
ドアが開き、隙間から湊君の顔が出てくる。
表情はいたって普通、だと思う。
「めずらしいね、灯里ちゃんがこっちにくるなんて」
微笑み言うけれど、何かを隠すかのようにドアを必要以上に開けようとしなかった。
なんだろう……気になるけどいいか。見られたくない物とかあるのかもしれないし。
私はなるべく室内を見ないようにしつつ湊君の顔を見上げて言った。
「いや、えーと……」
様子が気になっただけなんだけど……どうしよう、なんて言おう。全然考えてなかったな。
「あの、ほら、大丈夫かな、と思ってそれで」
結局嘘をつけない私は、笑いながら誤魔化しつつ言った。
「あぁ、うん、大丈夫だよ。ねえ明日、一緒に来てくれるんだよね」
そう言った湊君の表情は少し不安げだ。ということはあんまり大丈夫じゃないんだろうな。
「うん、一緒に行くよー。いろいろやるみたいだから楽しそうだし。朝起きなかったら起こすからね」
湊君が朝から起きることは余りない。約束していたらがんばれるみたいだけど。
湊君は小さく微笑み、頷きながら言った。
「あぁ、うん、よろしくね。えーと、トークショーが一時半からでそのあとオークションなんだけど、十一時半には来てほしいって言われてるんだ」
「わかった。じゃあ、十一時にはここでないとだよね」
そうなるとお昼は向こうで食べる形になるのかな。
「キッチンカーもでるからお昼は食べられると思うよ。できるかぎり何か買ってもらう方が寄付も増えるから」
そうか、明日のイベントの収益は寄付になるのか。それなら会場で買った方がいいね。
「わかった。じゃあ、また明日」
「うん、おやすみ」
そして湊君は最後まで私に部屋の中を見せないまま、扉をすっと閉めた。
うーん、様子を見に来たんだけどほんとうに大丈夫なのかな。少し心配だけど、本人が大丈夫、というなら信じるしかないだろう。
私は後ろ髪ひかれながらも扉の前を後にした。
そして翌朝。
私は七時に目をさまし、リビングへと向かう。もちろん湊君は起きてきていない。まだ起こすには早いしな。
カーテンが閉じられているので部屋の中は暗い。まずカーテンを開けて外を見ると太陽が弱々しく空で輝いていた。
今日は寒いのかな。風でカタカタと窓がわずかに揺れている。
私はキッチンへと向かい、朝食を用意しようと冷蔵庫を開けた。