クリスマスがもうすぐやってくる。
十一月にはいると一気に町はクリスマス色に染まり、雪だるまやツリーの装飾を見かけるようになった。
クリスマスかぁ。クリスマスって何するだろう。キリスト教徒でもなんでもないから、普段と変わらない普通の日、よね。
「やっぱり引っ越そうと思うんだ」
十一月五日。イベントの時に写真などを渡してきた女性の事を弁護士に相談した湊君は、夕食の時私にそう告げた。
「まあ、そうなるよねぇ」
ストーカーにあったら引っ越せは鉄則みたいだし。
ストーカーからの事件に発展する事例はたくさんあるものね。そうなってからでは遅いから、引っ越す方がいいだろう。
私の名前とか知られていなければいいけど。
「だから灯里ちゃん、部屋を探すから一緒に見に行こう。ここより広い部屋」
「うん、わかった」
そして部屋探しはとんとん拍子に決まって、ここからひと駅離れた場所にある、駅近くのマンションに引っ越すことになった。
これといった趣味がなく、最低限にしかお金を使わないとかで貯金はそこそこあったらしく、湊君は即、引越し先を決めた。
引越しまで一カ月ですよ?
その間に例の彼女が現れるんじゃないか、と思ったけれど現状は現れていない。
彼女には弁護士を通じて警告文を出した、と聞いた。
「もう届いているはずだけど……ねえ、灯里ちゃん、しばらく俺、迎えに行くよ」
「え? あ、うん」
そう言われたのが、あの手紙騒動から二週間ほど経った十一月十七日日曜日の夕方のことだった。
「それって、私も危険だってことだよねぇ」
私はあの、切り刻まれた写真を思い出す。
「うん。できれば避難してほしいんだけど、そうもいかないよね。引きこもっているわけにもいかないし」
そして湊君は心配げな顔になる。
在宅勤務は可能だけど、ずっと引きこもりはなぁ……避難も現実的じゃないし。引っ越す準備ができなくなる。
在宅勤務の相談、明日して来よう。
そんなすぐに現れたりしないよね。
「とりあえず明日会社行って、在宅勤務の申請してくるね」
「うん、迷惑かけてごめんね」
そして湊君は申し訳なさそうな顔をした。
翌日、月曜日。
出勤した私は、上司に在宅勤務の申請をした。
「また何かあったの? 大丈夫?」
と、上司には言われてしまった。前回在宅勤務にしたときはさすがに事情、話したのよね。だから心配されるのは当然か。
「またちょっと……」
と言って苦笑すると、上司は声を潜めて、
「転勤する?」
とまで言ってきた。
営業所はほかにもあるから転勤する、という選択肢は確かにあるけれど。でもそれはなぁ。
「ちょっと考えます」
と、返事をはぐらかして私は仕事をこなし、会社を後にした。
外に出ると、すっかり辺りは暗くなっていて、外灯が通りを照らしている。
「灯里ちゃん」
湊君の声に私は視線を巡らせると、歩道の隅に立つ彼の姿を見つけた。
紺色のコートを羽織った彼は、私の方を見て手を振り、こちらに近づいてくる。
この辺りは車で移動するには少々不便だからだろう。歩きできたんだな。駐車場は有料のものしかないからそうなるよね。マンションまで大した距離じゃないし。
私は手を振り返し、
「お待たせ」
と言って歩み寄る。
「じゃあ帰ろうか」
「うん」
そして湊君が私に手を出してきたので、私も手を出してそれを握りしめた。