十三日金曜日の夜。
最近引越し準備で全然のんびりもしていなかったから、今日はお酒を飲もう、という話になっていた。
前にお酒を飲んだのは養護施設のイベントの夜、十一月三日の時だ。
あの日、酔ったせいか別の理由かはわからないけれど、初めてキスされたんだよね。
思い出すと少し恥ずかしい。
だから今日、お酒飲みたい、と言われた時はちょっとどうしようかと思った。だけどもうだいぶ前だし、いちいちそんなことで断るのもおかしいから受けたものの、なんとなく湊君の動向が気になって仕方なかった。
お風呂に入った後のまったりする時間。
私たちはソファーに並んで座り、映画を見ながらワインを飲んでいた。
内容は私の好みに合わせて、ミステリー映画だ。少し古い映画で大学教授が事件に巻き込まれていく物語だ。コメディ要素が強いのでところどころで笑いが起きた。
そして、私たちが飲むのは白ワイン。甘くて飲みやすいから飲みすぎそうで怖い。まあ、酔いつぶれても家だし明日は休みだから問題はないけれど。
湊君をちらり、と見る。
見た感じそんなに酔っている感じはしない。私も湊君も別にお酒に弱くはないのよね。だからワインの一杯二杯でそこまで酔うわけがなかった。
私と彼との距離は十五センチ位だろうか。もうすこしあるかも。密着せず、だけど離れ過ぎす、という距離。なんとなくこれ以上近づけないのよね。そして湊君もこれ以上近づいては来ない。
これが私と湊君の距離、なのかな。
って、私何を考えているんだろう。
私は映画に集中しようと正面を見つめた。
いい感じに酔いつつ映画も半ばを過ぎた頃、画面に猫が出てきた。
白い毛並みの猫で、両目の色が違うオッドアイだ。へぇ、あんな目の色の猫、いるんだなぁ。この子、通りすがりの猫なのか、それともタレント猫なのかな。
そんなことを思っているうちに猫の場面はすぐに終わってしまい、別の場面に切り替わってしまう。
その時、隣から私の名を呼ぶ声がした。
「ねえ灯里ちゃん」
「何?」
答えつつ私は湊君の方を見る。彼はこちらを見て言った。
「市に保護されている猫、飼いたいんだけどどうかな」
相変わらず、私の様子を伺うように自信無げな表情でこちらをじっと見つめながら聞いてくる。
これは癖、なのかな。それとも本当に不安があるんだろうか。その辺は未だによくわからない。
「急にどうしたのよ、猫なんて言い出して」
今までそんな話したことあったっけ。いや、あるけどそれはずいぶんと前の話だ。
「今猫が出てきたからさ。前から言おうとは思ってたけど、どう切り出したらいいかわかんなくて。ほら、前に猫を預かった時、猫飼いたい、って話をしたでしょ」
確かにした。覚えてる。いつか飼いたいって。でもそれは遠い未来だと思っていた。
「そうだね、もうあれからだいぶ経つよね」
たしか九月くらいの話だったような気がする。あの預かった猫……ココだっけ。黒い猫ちゃん、元気かなあ。大人しくて可愛かった。
湊君は頷きながら言った。
「うん。でも前の部屋だとリビングに機材おいていたから片付けないといけないし、どうしようって思っていたんだよね。でも今回引っ越して機材関係は俺の部屋に全部いれたから、それなら飼えるかなって思って」
あぁ、そうか。パソコンのケーブルとか、猫がいじったら危ないもんね。
猫かぁ……確かに憧れる。でも。
私はずっとここにいるわけじゃない。私がいるのはきっと来年の七月までだし、その後のことを考えると頷きにくい。
どうしよう、これ。なんて返事しよう。
きっと私の顔に思っていることが出たのだろう。悩んでいると、湊君は首を横に振り、
「えーと、俺がちゃんと面倒を見るから大丈夫だよ。それくらいの収入はあるし。先はともかく、今は灯里ちゃんと一緒にいるから、灯里ちゃんの許可得ないとでしょ?」
と、早口で言う。まあ確かに。
大丈夫、一緒に飼おう、なんて言えないけれど、いる間は一緒に飼うのは全然大丈夫だと思う。
「それならいいんじゃないかな」
言いながら頷くと、湊君はほっとしたように笑い、顔を傾けて言った。
「よかった。市の愛護センターに保護されている猫、ホームページで見られるからこの映画見終わったら見てみようよ」
「そうね」
答えて私はワイングラスを傾けた。