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第88話 猫を飼おうか?

 十時過ぎ。

 映画が終わり私は思い切り腕を上にあげて背伸びをする。そして、湊君の方を向いて言った。


「ありがとう、私の趣味に付き合ってくれて」


 すると彼はワイングラスを片手に微笑み言った。


「面白かったね」


 短くて、でも明確な感想を口にした後、そこにワインを流し込んでいく。

 確かに面白かった。でも不満も無くはないんだけど。


「そうねえ、昔からある因習村の物語で、大学教授がその村の伝承を調査しに行ったら事件に巻き込まれていくわけだけど、なんで外部から人がきているときにそんな事件起こすのか不思議なのよね」


 なんて言いつつ、私はワインをグラスにつぐ。


「それは……そうかもしれないけど、でもこの映画だと殺さないといけない理由ができたわけだよね」


 苦笑しつつ答えた湊君は、グラスをテーブルに置きながら立ち上がる。

 確かにそうだけれど。外部の人間が去ってからでも遅くないかな、と感じることがままある。

 でも、それを言ったらお話が成立しなくなってしまうんだけどね。

 金田一がいるのに殺人やる犯人みたいな。あれ、バレないわけないのに、て。でもそんなこと言ったら話にならないわけで、そんなのはわかってるのよ。

 湊君はリモコンを手にしてテレビ画面を切り替え、サブスクの画面から動画へと変える。

 そして湊君は、音楽の動画を選択しリモコンをテーブルに置くと、


「タブレットとってくる」


 と言い残し、廊下へと向かっていった。

 あぁそうか。保護猫を見よう、って言っていたっけ。ホームページで見られるのかな。

 すぐに湊君が戻ってきて、ソファーに腰かけてタブレットを操作する。

 私はワイングラスをテーブルに置くと、湊君に近づきタブレットを覗き込んだ。

 正直、そういうサイトを見るのは初めてだ。

 猫の画像に推定誕生月、性別などがのっている。

 白猫、ハチワレ、黒猫。比較的小さい猫が多いけれど、一歳くらいの猫もいる。

 この子たちって、引き取り手が現れなかったらどうなるのかな。

 そんなことを思うと少し心が痛くなる。でも、それはペットショップで選ぶのも大して変わらないのかもしれない。

 命を選ぶ、という点においては一緒だしそれによって選ばれない命があるんだもの。


「どの子がいいってある?」


 そんなことを言われても、決めるのは難しい。


「うーん……どうしようか」


 呻ってから言い、私はさらに湊君に身体を近づけて画面に見入る。

 これは……選べないよねぇ。だって、どの子もかわいいんだもの。

 画面がスクロールされていき、「譲渡申し込み会」という言葉が目に入る。耳慣れない言葉だな。そう思ったのは湊君も同じなようで、彼はその言葉をタップする。

 すると別のページに遷移して、「譲渡申し込み」についての説明へととぶ。

 市の保護センターに保護されている猫などを引き取る場合、申込み書の記入と面談が必要だという。

 それに合格すると、通知がきて保護動物の引き取りができるそうだ。

 結構厳しいんだな。まあそうよね、命を引き取るんだもの。


「あぁ、申し込み会、明後日やってるみたいだね。あ、朝早い……」


 心が折れそうな湊君の声に、私は内心苦笑する。

 相変わらず朝は起きないのよね。九時から十二時が受付時間じゃあ、湊君が寝ている時間だ。

 でもメインは湊君なんだし、彼が来ないと意味がない。

 私は彼の背中をぽん、と叩き、


「ここまで車で二十分位かな? 十一時に出れば間に合うから、十時位に起きれば大丈夫よ」


 と、声をかける。

 そもそも湊君は、早起きしなくちゃいけない時はちゃんと起きているんだよね。すごく眠そうだけど。

 だからきっと大丈夫だろう。

 湊君は、弱々しく笑い、


「まあ、そうだね」


 と言い、頷いた。


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