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第96話 そして一年が終わる

 時間はあっという間に過ぎていき、クリスマスがやってきた。

 クリスマスのプレゼントは決まらないから一緒に買いに行った。

 湊君は画材を、私はブレスレットを買ってもらい、二十四日の夜を静かに過ごした。

 そして迎えた年末。クリスマスからお正月の切り替えすごいなっていつも思う。

 だって洋から一気に和、なんだもの。

 この間までクリスマスツリーがでて英語の曲ばかり流れていたのに、今は門松やお正月飾り、それに越天楽今様などが流れている。

 温度差がすごい。

 仕事納めをして私はお正月休みに入った、十二月二十八日土曜日。

 年末年始の引きこもりの準備のため外に出た私は、心底げんなりしていた。

 車でスーパーに来たものの、人が多い。これでもかっていう位人がいるし、駐車場も混んでいた。

 一体みんなどこに隠れていたんだろう?

 家族連れに老若男女、あらゆる世代の人たちがスーパーへ買い物に訪れていた。


「人、多いから早く帰ろうか」


 そんな湊君の言葉に私は激しく頷いた。


「うん、早くしよ。いろいろ買い込んで、もう私、外には出ないんだから。一週間は引きこもれるようにしないと。」


 湊君に寄り添いつつ私は言い、首を小刻みに横に振りながら言った。

 年末年始なんて外に出るものじゃない。除夜の鐘も初詣も遠慮したい。


「一週間は長いね。まあどこ行っても混むしね」


「そうそう、そうなの。だから私は外に出ないし引きこもるの。ありがとう、サブスク。貴方さえいれば私は幸せな時間を過ごせるんだもの」


 言いながら私は思わず祈りをささげた。

 本当に、サブスクには助けられている。外に出なくても映画を好きな時に好きなだけ見られるって最高よね。


「あはは、そうだね。あれ、灯里……は、初詣にはい……」


「行くのはいつも三が日のあとって決めてるの」


 それを初詣と呼ぶかは知らないけれど。

 言葉を遮って言った私に、湊君はあはは、と声を上げて笑う。


「やっぱりそうなんだ。そうだよね、半端なく混むもんね」


 そうそうその通り。三が日は初詣に行くものじゃないのよ。そのあとでもおみくじはひけるし、お参りはできる。だって神社はいつだってそこにあるんだから。

 当たり前よね。わざわざ私が人で混みあう場所に近づくわけがない。


「そうそう。近付いちゃだめなのよ。人が多い所なんて。あぁ、早く帰ろう。そしてお菓子食べつつ映画見たいの」


「わかったよ。じゃあたくさん買い込まないとね」


 よかった、湊君がおんなじ価値観で。そうじゃなかったら大変よね。

 サブスクでいろいろ映画見たり、ドラマ見たりできる世の中ありがとう。

 便利な世の中に感謝しつつ、私たちは食材やお菓子などを買いあさり、会計をすませて外に出た。五ケタいっちゃったなぁ……でもこれだけ買えばしばらく引きこもり生活できるよね。

 冷凍食品や保存食、色々買ったし。

 駐車場ではひっきりなしに車が入ってきては出ていく。

 うーん、年末って感じだなぁ。

 年始はお休みするお店も多いから、色々と買い込んでおかないとだもんね。だから私たちも今日、出てきたんだけど。

 買い物かご三つ分にもなった、購入品の詰まった大きなエコバッグを車に詰め込み、私たちは帰路につく。

 やはり道路も混んでいて、普段より時間がかかってしまう。


「そうだ、ねえ、この間市から手紙が来たんだ」


 運転しながら湊君が言った。

 手紙……?

 一瞬首を傾げた後、私は思い出す。


「市からの手紙……って、あぁ、保護猫の?」


 目を見開いて湊君を見ると、彼は頷き言った。


「うん。合格したから引き取ろうかなって。その前に色々と買い揃えないとだけどね」


「そうなんだ、よかったねー」


 とうとう猫をひきとれるんだ。楽しみだなぁ。


「湊と一緒にいると、色んなことがあってほんと、楽しいなー。でも猫引き取ると、泊まりとか行きにくいよね」


「うん、だからね、灯里ちゃん。その前に泊まりで出かけない?」


 猫の時もそうだったけど、湊君の提案はいつも突然で、驚かされてばかりだ。

 何を言われたのか私は一瞬考えてそして、


「うん、どこいく?」


 と、深く考える前に口を動かした。

 どこ行くんだろう。いや、何も思いつかないけれど。


「うーん、とりあえず二月は人が少ないから二月に出かけるとして。温泉とかの方がいいかな。熱海とか、伊香保とか?」


 私たちのもつ温泉知識なんて大してないからそれ以上案が出てこない。


「草津とか、あと鬼怒川とか?」


 なんとか絞り出したものの、沈黙が続いてしまう。


「とりあえず、行くなら海がある方がいいな」


 この辺りは海がないのよね。だから山よりも海が見える方がなんかいいかもしれない。


「じゃあ熱海とかかな。帰ったらそっちの方で調べてみようか」


 前から泊まりで出かけたい話はしていたし、今さら拒否する理由もない。

 なので私は頷き返事をした後、どこに行こうかと頭の中でいろいろ考えた。




 帰宅して、買ってきたものを片付けた後私たちは泊まりで行く先を決めた。

 場所は熱海で、海が見えるホテルだ。行くのは二月一日土曜日で一泊二日。

 楽しみがどんどん増えていくな。平和なのがちょっと怖いくらいだ。

 私、湊君と一緒にいていいん、だよね? 大丈夫だよね?

 だってストーカーから助けてくれて、一緒に暮らして、私が彼を拒絶する理由はきっとないと思う。

 なんといっても一緒にいて楽しいって思えるのが嬉しい。ただいま、と言って、おかえり、と言ってくれる相手がいる幸せを私は毎日かみしめている。

 でもそんな話、どうやって切りだしたらいいんだろう。

 そして迎えた大晦日。

 テレビでカウントダウンを見ながら私たちはゆったりと過ごす。

 こんな時間がずっと続いたらいいなぁ。

 そう思いつつ私は湊君にもたれかかりそして、〇時が過ぎる。


「あけましておめでとう」


「おめでとう」


 そして視線が絡まりどちらともなく口づけた。

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