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第110話 スキャンダル?

 最近、私は伏見綾斗がいたグループ、セプトリアスや今のグループ、アークの曲を聞くようになっていた。

 セプトリアスのライブに行ったのは大きかった。ドラマやアニメの主題歌になった曲は知っていても、それ以外のアルバム曲とかは知らなくて。知っていたらもっと楽しめただろうなぁ、と思ってから色々と聞くようになった。

 セプトリアスはサブスク解禁していなくて、一部のPVが動画サイトで見られるだけだ。ダウンロードサイトで買うことができるけれど、私はCDを買うことにした。

 ライナーノートにあるメンバーの写真を見ると、皆それぞれ違うかっこよさがあるのよね。

 気が付くと、CDを流しながら部屋で作業していることもあって自分でも驚きだった。

 さすがに綾斗にはハマらないけれど、PVを見ているとハマる気持ち、わかるのよねぇ。

 推し……いや、ハマったら最後な気がして私はそこまで踏み切れていない。

 ホームズやポワロ、右京さん以外に私が興味を持つなんて思わなかった。

 アクスタとかぬいぐるみとか。あ、自作でぬいぐるみつくる人もいるのよね。すごいなぁ。

 皆、推しっているのかな。

 三月二十一日金曜日の午前中。私はふと疑問を抱いて、軽い気持ちでSNSにコメントを入力した。


『最近、アニメの主題歌になっているアークの「桜色の雨」にハマっていてアークを聞くようになりました。まだ推しはいないけど、皆さんに推しはいますか?』


 と、投稿してみたところ色んなコメントが集まった。


『フリューゲルです! 伊織君かっこいい!』


『放課後ロックが好きですね。女性バンドでみんなかっこいいんです』


 他にもアニメのキャラやマンガのキャラなど色んな名前が集まってくる。

 軽い気持ちで聞いたことだったけど、どんどんコメントが集まって、だんだん怖くなってくる。

 え、こんなに集まるの、コメント。

 これがバズ……?

 どうしたらいいのかわからなくなった私はそっとSNSを閉じ、終業まで放っておくことにした。


 SNSは誰とでもどことでもつながることができる。

 そしてそこに書かれた言説は、いっきに広まってバズり話がひろがったり、燃え上がったりする。

 私が何の気なしに投稿した呟きは何万というインプレッションを稼ぎ、コメントを集めた。

 まさかこんなことでバズるとは思わなかった私は、上司に褒められ、同僚には、


「何がバズるかわからないよねー」


 と言われた。

 確かにそうだ。狙ってもいない呟きなのにこんなにウケるなんて思いもよらなかったよ。

 終業近くになり、すごい勢いで集まったコメントにお礼を言いつつ、バズったら宣伝の例にのっとり投稿をした後、トレンド欄を見にいく。

 あ、推し活って言葉が入ってるのちょっと面白い。

 あとはVチューバーの話題やゲーム、政治の言葉が並んでいる。その中に、私は気になる言葉を見つけた。


「あれ……? なにこれ」


 思わず声を漏らして、私はトレンドの下の方に載っているある言葉を見つめて首を傾げた。


「綾斗の両親」


 何これ、どういう意味? なんで綾斗の両親が話題になっているの? 不思議に思い、私はそのトレンドをクリックした。

 すると、出てきたのは週刊誌の呟きだった。


『伏見綾斗の両親は不倫の末結婚。捨てられた元妻は実の息子を切りつけ入院? 詳細は本誌にて』


 みたいなことが書かれている。 

 な、な、な、なにこれ?

 なんでこの話が今さら出てくるの? おかしくない? しかも両親の話でしょ。綾斗は関係ないじゃないの。

 そんな怒りがわいてくるけれど、ふと、手が止まる。

 今までの芸能ニュースで、有名人の親に関する話題はいくつも見ていると思う。でもその時私は何を思っただろう。

 すごい人もいるんだなぁ、と真に受けたり、スルーしたり。事実かどうかなんて気にしたこともなければ、なんでこんな報道するんだろう、なんてことも思ったことがない。

 日々いろんな話題が出てきて大きく問題になったり消えていったりするけれど、そこまで気にした事、なかったなぁ……

 そんなことを思いつつ、私はパソコンの画面をスクロールしていくと、色んな人の呟きが出てきた。

 両親への批判の声もあるけれど、その多くは週刊誌への批判の声だった。


『不倫とか綾斗関係ないじゃん。週刊誌は何したいの?』


『こんなこと晒されて綾斗可哀そう。妹と弟、まだ子供だよね』


『昔の話でしょ? なんで放っておいてあげないんだろう』


 という声がずらり、と並ぶ。

 本当よね、放っておけばいいのに。こんなの誰が知りたいんだろう。

 この話題、広まっちゃうのかなぁ。テレビでやったりすると色んな人に知られちゃうよね。だからと言って何にもできないのが歯がゆい。

 その時、デスクの上に置いてあるスマホがぶるり、と震えた。

 画面を見ると、湊の名前が表示されている。

 もしかしてこの件かな。

 そう思い、私はスマホのロックを解除して、メッセージを確認した。


『綾斗からメッセージがきて謝られた』


 謝られたとはいったい。


『どういう意味?』


『週刊誌に両親の事がのるって、今日知ったんだって。それで騒ぎになるかもって。俺の事もちょっと書いてあるみたいだから』


 あぁ、確かにあのタイトルなら湊の事も書いてあるでしょうね。しかも本人にとってはトラウマになっている内容が。

 可哀そうすぎるでしょう、そんなの。


『こういうことがあるから嫌だったんだけど、まあ仕方ない』


 確かに、有名人はちょっとしたことで話を広められてしまうもんね……

 しかも不倫や子供を切りつけた話は本当の事だからな……


『湊は大丈夫なの?』


『大丈夫だよ。俺の名前が公表されているわけじゃないし、それにSNSも絵をあげるだけだしテレビも見ないから』


 あぁ、そうね。

 うちのテレビで流すのは動画ばかりだもんね。

 ちょっと安心。だけど本当に大丈夫なのかな。何もなければいいけれど。

 伏見綾斗自身、それなりに人気も知名度もあるので、実母の話はけっこうなスキャンダルになりそうな気がするけれど、本人たちにはどうしようもないわよねぇ。

 もやもやを抱えつつ私は仕事を終えて帰宅をする。

 心配だからか、歩くスピードはどうしても早くなってしまった。


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